平成RPG
◆ LEVEL 0 ◆
「り、理事長〜!? ごっちんが?」
「そ。 りじちょー。 とゆーワケで、ミキティーはアタシの学校に就職決定ね」
「…は? ……はぁ!? ちょっ、いろんなこと飛ばしすぎじゃない、ねぇ?」
「まぁまぁ。来年度の春から数学教師として、我が朝娘(あさこ)学園で働いてもらいます」
「な…、え? ホントに? ドッキリとかじゃなく?」
「アタシがミキティーに嘘つくと思う? さ! さっそく就職祝いだー!」
「え? えぇー??」
なんてやりとりがあったのは、もうかれこれ1年くらい前になるのか。
大学4年、就活を始めようとした私の前に突如現れたごっちん。
実際会うのは高校以来だね久しぶり〜とか、懐かしい思い出話に浸ることも何も無しに、突拍子もないこと言い出してくれちゃって。
そしてまぁ、本当にドッキリでもなんでもなく、ごっちんはこの朝娘学園の理事長で。
未だ半信半疑のまま初出勤し、たった今職員室でようやく実感がわいてきたという…間抜けといえば間抜けな状況に陥っている、と。
それもこれも、ごっちんのあの飄々とした態度で「就職決定」なんて言われたのが原因なわけであって。
ここで文句のひとつも言ってやりたいところだけど、当のご本人は重要な会議で欠席ときた。
今日は私の初出勤の日だよ。
会議なんてやってる場合じゃないでしょーが。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ねぇねぇ、れいなっ! これ似合う? かわいい?」
「似合わない。 かわいくない」
さゆの方なんて一瞬も見ないで、れいなはファッション雑誌に向かって言った。
ちょっとイラっときたので、さゆはれいなの顔を両手で掴んで無理やりこっちを向かせた。
「いった! ちょ、今、首から変な音ぉ!」
「ちゃんと見てよ。ね、かわいい?」
さゆはその場でくるりと一回転し、最後に「えへっ」とポーズを決めた。
「うっわ…」
「あら? れいなったら、さゆがかわいすぎて声も出ないの?」
「……何がしたいと?」
「さゆは早く女子高生になりたいの」
「今から制服着て変なポーズ決めんでも、明日になれば自動的に女子高生になれるって」
れいなの視線はまた雑誌に移ってしまう。
冷めてるなぁ。
さゆは明日が楽しみで楽しみで仕方がないのに。
「明日、一緒に行こうね。先に行かないでね」
「それ言うの何回目? わかったからもう帰れって」
「ん〜、今日も泊まってっちゃおうかな」
「あ〜も〜! 明日は早めに出るんだから」
「やぁだ」
「はぁ……」
なんだかんだ言っても、れいなはさゆに甘いんだよね。
大切で大好きな、さゆの大親友。
明日から(高校に行って)もよろしくね。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「これでよし…と」
壁に新しい制服をかけて、一息つく。
明日からはこれを着て、通うんだ。
新しい学校。
友達できるかな?
先生はどんな感じかな?
勉強、難しくないといいな。
ベッドに寝そべってケータイを開く。
アラームは7時で間に合うかな?
あ、自己紹介…なんて言おう。
ケータイをメール作成画面にして、文章を考える。
『はじめまして、亀井絵里です。 よろしくお願いします』
……じゃあ、短すぎるよね。
趣味とか言おうかな。
あ、でもお見合いじゃないんだから…ね。
う〜ん、好きな食べ物とか言ってもワケわかんないし…。
別にいいかなぁ?
『はじめまして、亀井絵里です。 趣味はミステリー系の本を読んだり、映画を見たりすることで、好きな食べ物はスパゲティーです』
いや、ちょっと待って、やっぱ変かも…。
うわ〜、どーしよ…。
明日までにちゃんとした自己紹介できるようになんないと。
第一印象ってすっごい重要だもんね。
それから何度も文章を書き直して、やっと寝ようと思ったときにはもうアラームが鳴るまであと4時間をきっていた。
☆★次回予告☆★
どーもー。 藤本美貴です。
まさかごっちんが朝娘学園の理事長なんてやってたとはねぇ。
ま、おかげで就活やんなくて楽だったけどさ。
この春から晴れて数学教師。
生徒からの人気を独り占めしてやる勢いでいくぞ!
次回、平成RPG 第1話
『ビギナーズラックと教師の役割』
この私が生徒に恋!?
ないです。 絶対。
たぶん。
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