平成RPG
◆ LEVEL 2 ◆
適度に適当に
【ROUND-1】
「どうしてミキティーは今、ここに居るか…わかるよね?」
昼休みが始まった直後の理事長室。
ごっちんが机の上で手を組み、怒りを纏う笑顔で言った。
私はその正面に立っていて、よくドラマとかで見るサラリーマンとその上司にたいなこの画に少しだけ笑った。
「何笑ってんのさ」
「いや、なんか…ごっちん偉い人みたい」
「実際偉いの! アタシはミキティーの上司なの!」
机を手のひらで乱暴に叩き、かわいらしく憤慨するごっちんはやっぱりごっちんで。
とてもそうとは思えないけど、ごっちんはこの朝娘学園の理事長で私はそこの一教師。
これはもうだれが何と言っても事実であるし、私もやっと実感がわいてきたとろなので、とりあえず今は「教師の私」になることにした。
「すみませんでした。ところで、何の御用でしたでしょうか、理事長」
「ぅお…突然人格が…。うん、まぁあれだよ。昨日のことなんだけどね」
昨日。
私が初授業に失敗してちょっと落ち込んでたら、ごっちんが現れて。
いきなり「ユーレイ退治しろ」って言われて、そんでなんだかわからないうちにホントに退治しちゃったんだよね。
「あんな戦い方しちゃだめだよ。いつか死んじゃうよ?」
「え…?」
「まぁ、昨日はビギナーズラックだね。次からはちゃんと…」
「ちょっ、ちょっ! ちょっと待った!」
「ん?」
「いつか」とか、「次からは」とか…もしかして、もしかしなくても…?
「あぁ、そうだよ。ミキティーは晴れてこのトーテ撃退特別組織ツァオベリン、朝娘(あさこ)支部担当『チームごっちん』の正式メンバーに任命されました。ってゆーか、アタシがしました」
「はァァ!?? なん…ちょ、なにもかもわからないんですけど」
「よし! それじゃ、気合入れて、説明しまーっす」
まず、この世界にはトーテという幽霊みたいな魔物みたいな、まぁそんなヤツがいて。
そいつは元は人間の魂の、恨みとか怒りとか負の部分らしい。
それが死んだあとにああやって悪さをする。
人間の魂を削ぎ取って、一緒に死者の世界へ連れて逝こうと。
そして、それらに対抗するのがツァオベリンという組織。
ツァオベリンとは、組織名だけではなく、ツァオバー・クラフトを使える人間のこともそう呼ばれている。
ツァオバー・クラフトとは、トーテに対抗することができる力のこと。
特定の人間が持つ特別な力で、超能力とか、魔法のようなものであるという。
「え…いや、なんだか…ものすごく現実味が無いんですけど」
「けど、これが現実なの。ミキティーだって昨日、実際体験したでしょ?」
「そんな…こんな…知らなかった…」
「そりゃそうだよ。一般人には公表してないもん。むしろ故意に隠してる」
「なんで?」
「パニックおこしちゃうでしょ? それに、ほとんどの人にとってトーテは目に見えない存在。だからそんなこと言ったって信じてもらえないよ。世間のみんなに信じてもらえるまで説得を続けるより、いっそ隠したままでいるほうが楽なの」
ごもっともで。
「…ってゆーか、こんなこと日本中で起きてるの?」
「うん。…まぁ、出現率は人口とか場所とかに影響されるけどね」
「トーテは元は人間の魂だから…」
「そう」
「じゃあ、この町にも何人か私みたいな…えっと…」
「ツァオベリン?」
「そう、ツァオベリンがいたりするの?」
「んーん」
ごっちんは立ち上がって後ろの大きな窓の方を見た。
そこからは静かな裏庭と、遠くにある町並みの一角が見える。
「この町にいる正式なツァオベリンは、アタシとミキティーだけだよ」
「え? だって…」
「ここ、朝娘町も去年までは隣町の『チーム☆ハッピー』が担当してくれてたんだけど、年々増えるトーテに対抗しきれなくなってね。担当区域を細かく割りなおして、今年度から新しく朝娘町支部担当『チームごっちん』が結成されたわけです」
「なるほどね。そんで、私をそのメンバーに無理やり加えようと」
「え? 違うよ。もうメンバーになったんだよ」
何をおっしゃいますか。
冗談じゃないよ、私がそんな特別な人間だからってなんで命賭けてしかも無償で働かなきゃなんないわけ?
「ミキティー」
「ん?」
「1年B組、出席番号28番、道重さゆみ」
「っ!? …は、え? 何?」
「7月13日生まれ、かに座のA型。ちょっと思い込みが激しいところがあるようだけど、なかなかかわいいコじゃん?」
いきなり何を言い出すんだ?
うわ、ごっちん…嫌な笑顔…。
ま…まさか…
「教師が生徒に恋。それだけでも禁断なのに、相手は女子。禁断のデュエットだね」
うわーーーー……。
やっぱ、バレてる……。
「……恐喝罪で訴えるよ」
「そんなことできる?」
あ〜ぁ、もう…。
どっか旅にでも出ようかな。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
理事長室を出て、廊下を歩いていると前から生徒がひとり歩いてきた。
うわ…マジだよ…。
さっきまで話していたごっちんとの会話が頭の中で反芻される。
『そんで、ミキティーのこれからの仕事は新たなツァオベリンの獲得!』
『はいはい…』
『これが候補のリストね。でも、ほとんどのコは能力が微弱で…。でもまだ覚醒してないだけかもしれないから、とりあえず片っ端から調べてって』
『これって…全部ウチの生徒じゃん! しかもこれ…2,30人くらいいるし』
『そうだよ。アタシがこの学園に集まるようにしたんだ。そのほうが色々楽だし』
『……………』
『あ、ちょうど今ツァオベリン最有力候補の子がくるよ』
『え?』
『この部屋を出て右にちょっと歩いて、前から来るコがそう』
『うそ…そんなのもわかんの?』
『アタシのツァオバー・クラフトは『感知』だからね。ほら! 早く行った行った』
『いや、ちょ…行って何すればいーの!?』
『それはさっきゆったでしょ! はいはい、レッツゴ!』
ってなわけで、今私はそのツァオベリン最有力候補の目の前にいる。
彼女はそんな私に気が付いて少し驚いた顔をした。
「先生…こんなところに…」
「え?」
「あ、いや…。なんでも。何かれいなに用事ですか?」
あ、そうそう。
あなたに用事があるんです。
「あーっと…た、田中れいなさん…だよね?」
「そうですけど」
はぁ…もう、私こんな役やだよ〜。
ごっちんが自分でやればいーのに…。
「…なんです?」
「あ、いや…田中さんさ、部活とかもう決めてる?」
「? いえ…どこもあんま入る気せんし」
「そうなんだ…いや〜、実はさ…」
「ハイ?」
「そんな田中さんにぴったりな部活がありまして…」
「……?」
「ミステリー研究会ってゆーね…」
うっわ…今あからさまに顔をしかめたよ、このコ。
いや、わかる。わかるよ。
私だってこんなこと言われて「そうなんですか、じゃあ入ります」なんて言うわけがない。
「あの…せっかくですけど…」
「いや、ちょっと待って! あー私ちょっと、ホント困ってて! 見学だけでも…放課後部室に来てくれないかなぁ?」
「けど…」
「何か予定とかあったり?」
「いや…特に予定とかはないんすけど…なんでれいななんすか?」
うお。
そうだそうだ、そうだよね。
別に私、このコの担任ってわけでもないし…。
これが初対面なんだから、こんな風にいきなり部活動の勧誘なんかしたら不自然に決まってる。
ごっちんに言われるまま勢いで来ちゃったけど…。
あー。
でももうそんなこと後悔しても遅いよね。
「え、えっと…まぁ、とりあえずはホント、部室に来てとにかく話を聞いてほしいんだけど…」
「ん〜…」
ど…どうしよう…。
でも、もう一押しっぽいぞ、この流れ。
「ね、ホントお願い!」
「いや…ん〜…」
「あ、ジュース! ジュースおごるから! ね!」
「教師がそんなことしていんすか?」
「…ちょっとよくないかもしれないけど…でもホントに…」
「はぁ…まぁ、そこまで言うなら…話きくだけでいんすよね?」
「マジ!? やった! ありがとう! じゃ、放課後待ってるね」
うぉっしゃ!
なんとか説得成功!
ってか、こんな調子であと2,30人あまりを勧誘しなくちゃいけないわけ?
昼休み終了のチャイムが余計に私を鬱にさせた。
昼ごはん…食べてねぇ…。
【ROUND-2】
「………はァ?」
放課後、文化部の部室棟の一番奥の部屋。
そのドアにの上には『ミステリー研究会』と書かれたプレートがはめられている。
そこに律儀に来てくれたれいなに、私が今日ごっちんから聞いた話をそのまま話し、全てを聞き終わったれいなが一番初めに口にした言葉が先の「はァ?」。
れいなのこのぽかんとした表情。
昼休みの私がここにいるみたいだ。
とりあえず、ごっちんからは説明し終わったら理事長室に来てと言われていたので。
「よし、じゃあ、移動」
「え? いや、え??」
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
「よくいらっしゃいました〜」
れいなと一緒に理事長室に入ると、ごっちんは昼休みのときのように机に座っていて、満面の笑みを振りまきながら歓迎の言葉を言った。
「えっと…失礼します…」
「まぁ、そんな緊張しないで。悪いことして呼び出しくらったとかじゃないんだからさ」
当たり前だ。
失礼なこと言うんじゃないよ、ごっちん。
入学2日目にして理事長室に来るはめになってしまったれいながかわいそうでしかたないよ。
「じゃ、れいな。こっち来て」
ごっちんが例の武器置き場の前まで移動し、れいなを呼んだ。
オイオイ、出しっぱなしでいーのかよ。
あ、私たちが来る頃を『感知』して準備してたのかな?
よく考えたら、ごっちんのツァオバー・クラフトってものすごくない?
「え? うわ…なんすか、これ?」
「ツァオベリンが自分のツァオバー・クラフトを発揮させることができる特別な武器だよ。直感でなにか選んでみて」
「え、選ぶ?」
「まぁ、とにかくそっから武器を手に取ってみて」
困惑しているれいなに私が言った。
れいなは少しだけ私の方を見てから武器に向き直って、そのなかのひとつを手に取った。
黒いボディーに白で装飾が入っている、きれいな銃。
だけどすごく大きくて、ドラマや映画とかでよく見る拳銃の倍くらいはあるんじゃないかな。
「おめでとう! 田中れいなさん! あなたはたった今シーセンダーとして『チームごっちん』の一員になりました!」
「「え??」」
ごっちんの言葉に私とれいなが同時に反応する。
ちょっと、ごっちん…そんな武器選んだだけで…。
「この武器は特別なものだって言ったでしょ?」
「だからって…」
「じゃあ、ミキティー。今れいなが持ってるそのゲヴェーア、持ってみなよ」
なにがなんだか…。
私はれいなの側に行き、ごっちんがゲヴェーアと言った装飾銃をれいなから受け取ろうとした。
「うわァ!?」
「えっ!?」
取ろうとしたんだけど…持てなくて床に落としてしまった。
なんで?
ある程度重いだろうな…とは覚悟してたけど…これほどまでとは…。
明らかに見た目以上の重さだった。
「重っ! れいな、よくそんなに軽々と持てたね」
床から拾いあげようとしたけど、3センチくらい持ち上げるのがやっとだ。
えー? なにこれ?
「え? そんな…軽すぎるくらいでしたよ?」
「でしょー?」
ごっちんがニヤニヤしながら私を見下ろす。
「どーゆーこと?」
「このゲヴェーアは今かられいなだけの武器になったから。逆にれいなもミキティーのゲヴァルティヒ・メッサーは持てないはずだよ。これらは『適合武器』ってゆーくらいだからさ」
「なるほどね…」
私は銃を拾うのをあきらめて部屋の中央にテーブルを囲むように置いてあるソファーに座った。
れいなは不思議そうな顔で銃を拾い上げ、「スポンジ持ってるみたいなのに…」と呟いた。
「どう? 『チームごっちん』に入ってくれる?」
「まだ…ちょっと信じられないけど…まぁ、いっすよ」
「ホント!?」
「はァ!?」
私は耳を疑った。
いや、待てと。
「ちょっ、そんな軽い感じで引き受けちゃっていーの!? わけわかんないことに命掛けんだよ? しかもボランティアだよ?」
「特にやることなくてヒマだし。それに、なんか楽しそうだし」
「な…」
「よかった、よかった〜」
最近の若者は…。
ってか、ごっちんもごっちんでテキトーだし…。
こんなんでホントに大丈夫なのか??
☆★次回予告☆★
どうも。 藤本です。
今回、新しくメンバーに加わった田中れいな。
あんなにアッサリ承諾するとは…。
ついつい「最近の若者は」、なんてババくさいこと言っちゃったよ。
それにしても。
なんだかれいな、ちょっとボーっとしてたな。
何か悩み事でもあったのかな?
次回、平成RPG 第3話
『理解できないのは一番近くにいる友達のこと』
友達かぁ。
そういえば…しばらく会ってないな。
|