平成RPG

◆ LEVEL 3 ◆
理解できないのは一番近くにいる友達のこと




 【ROUND-1】


 昨日のことなんてすっかり頭から抜けているかのように、さゆはいつも通りだった。
 れいなはあれから結構悩んだのに。


 「でね、その公園で貧血で倒れちゃって、さゆは全然覚えてないんだけど、なんか藤本先生に会ったみたいなの。で、先生に家まで連れて帰ってもらったんだって。今日、お礼しに行かなきゃ」
 「…うん、そうだね」


 あれくらいのケンカはよくあることだけど、その後絶対その日のうちに「ケンカ両成敗」とか言って仲直りに来るのに。
 結局仲直りらしい儀式(?)も無く、れいなたちの関係は日常に戻った。

 さゆにとっては。


 その日は藤本先生の授業が無い日で、休み時間にさゆが職員室を訪ねても入れ違いになったり、れいなたちが移動教室とかで、結局さゆは藤本先生に会えないまま昼休みを迎えることになった。

 お弁当を食べ終わり、さゆは「職員室に行ってくる」という本日3回目の言葉を残して教室を出て行った。


 れいなはなんだか落ち着かない、しっくりこない気持ちでため息をついた。

 どこまでもさゆは普通だ。
 れいなが気にしすぎなのかな?
 明日とか、あさってとかになれば慣れてれいなも普通にできるかな?


 そんなことをぼんやり考えていたらブレザーのポケットでケータイのバイブがなった。
 さゆからのメール。


   「藤本先生、職員室にいなかったよ〜。。。ちょっと、さゆ探しに行くね。れいなも手伝って!」


 手伝ってって…。

 藤本先生の行きそうな場所なんて、まったく見当がつかない。
 まぁ、どこにどんな教室があるかまだよくわからないし、先生を探しながら校内を見て周ろうか。

 今度は呆れからくるため息をついて、れいなは椅子から立ち上がった。


 色々歩き回ってみたけど、見つからない。
 って、見つかるわけがないよね、こんなテキトーに歩いてるだけじゃ…。

 もうすぐ昼休みも終わるし、そろそろ教室に戻ろうかと思ったそのとき。

 れいなの目の前に立っている人物、この人がまさに藤本先生だ。
 さっきから廊下にだれか立ってて、こっち見てるのはわかってたけど…、近くに来るまで全然気づかなかった。


 「先生…こんなところに…」
 「え?」
 「あ、いや…。なんでも。何かれいなに用事ですか?」


 なんか、れいなを待ってたみたいな感じがしたから。
 もしかして、もうさゆに会って、さゆかられいなも一緒に先生を探してたこと聞たとか?
 なら、もう少し早く声かけてくれてもいいのに。

 けど、そうじゃなかったみたいだ。
 なんかよくわかんないけど、いきなり部活の話してきたし。


 「あの…せっかくですけど…」


 ミステリー研究会なんてまったく興味ない。

 さゆが探してたこと伝えて、教室戻らなきゃ。
 もう、昼休みが終わる。


 「いや、ちょっと待って! あー私ちょっと、ホント困ってて! 見学だけでも…放課後部室に来てくれないかなぁ?」
 「けど…」
 「何か予定とかあったり?」
 「いや…特に予定とかはないんすけど…なんでれいななんすか?」

 こんな人通りの少ない場所で名指しの勧誘活動なんて…。
 願書とかにも変なこと書いてないはずだけど。


 「え、えっと…まぁ、とりあえずはホント、部室に来てとにかく話を聞いてほしいんだけど…」
 「ん〜…」


 なんなんだろう…。
 ちょっと気になってきたけど、今日はさゆとゆっくり話したいしなぁ…。


 「ね、ホントお願い!」
 「いや…ん〜…」
 「あ、ジュース! ジュースおごるから! ね!」


 そんなことしてまでれいなを勧誘するなんて…。
 そーとー切羽詰まってんのかな?
 廃部の危機とか?

 「教師がそんなことしていんすか?」
 「…ちょっとよくないかもしれないけど…でもホントに…」
 「はぁ…まぁ、そこまで言うなら…話きくだけでいんすよね?」


 先生、すごく必死だし。
 まぁ、とりあえずは。

 「マジ!? やった! ありがとう! じゃ、放課後待ってるね」


 藤本先生が立ち去ってから、れいなはさゆのことを先生に話すのを忘れていたことに気付いた。

 ってか、もう昼休み1分くらいしかない。
 れいなは全力で教室まで走った。



 ギリギリで授業には間に合ったけど…。

 教室にさゆは居なくて、2分くらい経ってから「遅れました…」と小さい声で謝りまがら帰ってきた。
 ずっと探してたのかな?
 それとも、会えて話し込んでたのかな?

 すると、またケータイがなった。
 机の下で静かに開いて見てみると、さゆからのメールだった。


   「結局藤本先生に会えなかった。。。」


 れいなはそれにすぐ返信する。


   「れいな、さっき理事長室の近くの廊下で会ったよ」


 すると、すぐにさゆからメールが帰ってきた。
 先生が板書するのを見計らってケータイを開く。


   「なんでメールくれなかったの?」


 なんでって…昼休み終わる直前だったし。
 そう書いて返信。


   「それでも、メールのひとつくらいしてくれてもいいじゃん」



 しつこいな…。

 だめだ。
 イライラしてしょうがない。


 なんかおかしいよ。
 今朝の態度とか…。
 今のメールとか。

 とにかく腹が立つ。


 れいなはそれから返信しないで机に突っ伏した。
 意味わかんない授業に集中する気にもなれない。




 【ROUND-2】


 「れいな…れいな!」

 揺り起こされて目が覚める。
 怒った顔をしているさゆと目が合った。


 「もう放課後だよ? 帰ろう。あ、その前に職員室寄ってもいい?」

 瞬間、眠る前の苛立ちが一気によみがえった。


 「いや、れいな予定ある」
 「え…何? すぐ終わる?」


 腹が立つ。
 腹が立つ。
 さゆの何もかもに!


 「さゆにはカンケーない! 職員室にもひとりで行けっ」


 乱暴に言い放って教室を出る。
 帰ろうと玄関に足を向けたが、本当に予定があることを思い出し、文化部の部室棟に向かった。



  ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★



 さゆにはカンケーない。

 あんな風にれいながさゆに怒ったのは初めて。
 あんなにどこまでも冷たい声で。


 どうしてだろう?
 さゆの何がそんなにダメだったんだろう…?

 今まで生きてきて、こんなにショックを受けたことは無い。
 ショックすぎて…もうどうしていいのかわからない。


 ふと気が付いたら、さゆは教室にひとりきりで。

 時計を見ると、もう5時半。
 あれから2時間も経っている。

 さゆ…こんなにぼーっとしてたの?
 もうすぐ完全下校時刻。


 れいな、もう帰っちゃったかな?
 でも、もしかしたら…まだどこかにいるかも。


 さゆは生徒玄関まで移動してれいなを待った。
 れいながまだ学校に残ってても、ここにいれば会えるから。


 けど、会いたくない気もする。

 会ってどうするの?

 謝る?
 でも、れいなはどうして怒ってるのかわからないのに。


 どうして? って聞きたい。

 だけど。

 また、カンケーないって突き放されるかもしれない。


 でもきっと、今帰っちゃったらあとですごく後悔する気がする。



 そう思って下校時間を知らせるチャイムを聞くまで玄関でれいなを待っていたけど、結局れいなは先に帰ってしまっていたようで。


 でも、なんだか会えなくてほっとした。

 今、れいなに会うのがすごく怖かったから…。



  ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★



 上に『ミステリー研究会』というプレートがはめられているドアをノックすると、中から「どうぞ〜」という声が聞こえたので、れいなは少し緊張しながらドアを開けた。


 何人かの部員がいると思っていたけど、室内にいたのは藤本先生ひとりだけだった。
 部屋の真ん中に長机がふたつ、向かい合わせにくっつけて置いてあり、藤本先生は奥の窓を背にしてパイプ椅子に座っている。

 室内はその長机の他に、壁際においてある小さなホワイトボードと、その横にある何も入っていない棚があるだけでやけにがらんとしている。
 部室特有の「身内感」(?)とか「生活感」(?) ってのが感じられない。

 ここにいる、顧問らしい藤本先生でさえ、浮いている。


 研究会ってゆーくらいだし、部員が少なくて積極的に活動してはいないだろうな、とは思ってたけど。

 まるで、今年から新しくできたみたいな…。
 もしかして実際にそうなのかも。


 「待ってたよ、田中れいなさん。いきなり呼び出してごめんね」
 「いえ…」


 むしろ今は今日呼び出してくれたことに感謝したいくらいだ。


 「まぁ、そこ座って」

 藤本先生が斜め横にひとつだけ置いてあるパイプ椅子を指した。
 れいなは入り口からそこまで移動して、椅子に座った。


 「あと…、ハイ、これ約束の」

 言って、藤本先生は紙パックのココアをれいなの前に置いた。
 1階ホールのに自販機で売っているやつだ。


 そういえば、ジュースおごるから話だけでも聞きにきてくれって、そんな話だったけどすっかり忘れていた。


 「そんな…いいのに…」

 律儀なんだか、なんなんだか…。


 「遠慮しないで。これでも安いくらいだから…」
 「? …でも」
 「私、ココア飲まないし」
 「…じゃあ…遠慮なく。…ごちそうさまです」


 ホントはれいなもこのココアは甘すぎて好きじゃないんだけど、せっかくだし貰っておくことにした。


 「じゃ、さっそく本題に入ろうか」


 藤本先生が眉間にしわを寄せながら言う。

 そんなに深刻な顔で部活の紹介をするの?



  ○   ●   ○   ●   ○   ●   ○   ●   ○   ●



 藤本先生から、今、世界の裏側で起きていること。

 ツァオベリンという組織と、そう呼ばれるツァオバー・クラフトを持つ特別な人間。


 そして、れいなはその素質があるらしいことなどを一気に聞かされ、理事長室に連れてこられたかと思うと、いきなり『チームごっちん』の一員になりましたとか言われて。


 わけわかんなかったけど、もうなんでもいいやと思って。
 教師と理事長までが言うのだから、少なくとも軽い冗談とかではないだろうと思ったし。


 人を助けるなんてそんな大それたこと、こんなれいなに出来るのかわかんないけど、さゆに対する自分のための逃避として、表向き部活に入るということは都合がよかった。

 何かして気を紛らわしていれば、そのうち気持ちも落ち着いてさゆに向かい合える気がするんじゃないかって。



 「あ、そうだ。ミキティーにも言われたと思うけど、このことは一般の人、家族にも友達にも言っちゃダメだからね。企業秘密」


 何の企業なのか、ただ冗談を交えただけなのか(たぶん後者だろうけど)、理事長が言った。


 「はい」

 れいなは素直に答えて、改めて現実味の無い軽すぎる銃を見た。
 ゲヴェーアという大きな銃。

 そして自分はたった今から、『チームごっちん』のシーセンダー。


 少し間が抜けてるパーティ名と、かっこいい肩書きがあまりに釣り合ってなくて、れいなは今日初めてわずかだったけど笑った。




 【ROUND-3】


 理事長室を出てから、下校中も家に帰ってから今までずっとケータイを肌身離さず持っていたが、とうとうさゆから電話もメールも来なかった。

 どうして怒ってるの? くらい聞かれるかと思ってたのに…。
 聞かれてもうまく答えられないだろうけど。


 電話が来たら出て、メールが来たら何かしら書いて返信するつもりだった。

 だけど、もう夜中の2時。
 さすがにもう寝てしまっただろう。


 今まで小さいケンカはよくしてきたが、さゆにあんな冷たい態度を取ったのは初めてのことだった。
 昔かられいなにべったりで、他に仲のいい友達がいない、というか作りたがらなかったさゆ。


 もう少しれいなから離れて、友達を作ったり、恋人をつくるなんかしてもっと周りを見てほしかった。



 けど、藤本先生が好きだと言い始めて。
 こんなこと初めてだったし、いきなりだったからすごくビックリした。


 だからきっと、れいなの心が追いつかなくて。


 周りがよく見えていなかったのはれいなの方。
 周りどころか近くのさゆのことですら。

 いや、近くだからこそ…かな?


 はぁ…もう寝よう。
 今日はなんだかすごく疲れた。






  ☆★次回予告☆★


 毎度おなじみ、藤本です。

 れいな。
 私の知らないところでさゆとケンカしてたなんて。

 うん。
 100% れいなが悪いよ。

 なんてね。
 雨降って地固まるってゆーし。
 きっと大丈夫だよ。


 次回、平成RPG 第4話
 『寒気と眠気』


 こらー!
 美貴さまの授業中には寝るなよ!!



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