平成RPG
◆ LEVEL 4 ◆
寒気と眠気
【ROUND-1】
頭が重くて気分もよくないのは、寝起きのせいだけじゃないだろう。
一応ケータイを確認してみたけど、さっぱりさゆからは何の連絡もなかった。
あまり食欲がなかったので朝ごはんはヨーグルトで済ませた。
こんな生活が親にばれたら怒られるなぁ…とぼんやり考えながら。
れいなの家の両親は仕事でほとんど家にいることがない。
だから昔から向かいのさゆのおじさんやおばさんに面倒を見てもらいながら育った。
いつもはさゆがれいなの家に来て、一緒に学校に行くんだけど…。
今日はどうするんだろう。
来ても来なくてもいやだ。
れいなはいつもより15分早く家を出て、遠回りして行くことにした。
ゆっくりと歩いて、遅刻ギリギリで教室に入る。
さゆはすでに登校していて、一度れいなのほうを見たけど、無視していたら諦めて目をそらした。
小学生か、れいなは。
お弁当もミステリー研究会の部室でひとりで食べた。
部員はれいなひとりだけだってことは昨日聞いてたし、藤本先生が来ても別にいいし。
ミステリー研究会に入ったことはだれにも言ってなかったから、ひとりになるには丁度良い場所だった。
昼休みいっぱいそこで過ごし、午後の授業が始まった頃、ケータイがなった。
少し緊張しながら見てみると、なんと藤本先生からだった。
一瞬なんでれいなのアドレス知ってるのかと思ったけど、昨日これから必要になるだろうからってアドレス交換したんだった。
「どうも。藤本です。
今日、活動があるので放課後部室に集合ね」
教師が生徒に授業中メール出すなんて…。
先生今の時間、授業ないのかな?
とりあえず、わかりましたとだけ書いて返信した。
それから、さゆとは今日一日、ひとことも会話することなく放課後になった。
れいなは掃除がなかったのでホームルームが終わると逃げるように部室へ行った。
【ROUND-2】
『うん、そのあたりだと思う。注意しながら待機して』
「了解」
「はい」
夜、れいなと藤本先生は町外れにある一軒家の廃墟に来ていた。
今日、ここに来る心霊ファンがトーテに襲われるということをリーダー(後藤理事長のことだ。仕事中はこう呼ぶルールだそうで)が『感知』したのだ。
リーダーは戦闘にはまったく向かないツァオバー・クラフトだし、いても邪魔になるだけだからと言って理事長室から『声』だけ出動。
ここはコアな心霊ファンがたまに肝試しに来るあまり知られていない心霊スポットだ。
外観はきれいだけど、中はボロボロだってきいたことがある。
「暗…こわ…」
「れいな、こーゆーのダメ?」
「得意な人なんているんすか?」
「私は結構大丈夫…あ、車の音…」
先生と雑談していると、一台の車の音がこっちに向かってくる。
『ふたりとも、どっかに隠れて!』
慌ててふたりで庭の茂みに隠れた。
やがて車は家の玄関の前に止まり、中から懐中電灯とデジカメを持った男が降りてきた。
「ってか、よくこんなとこにひとりで来る気になるよね」
藤本先生が小声で話しかけてくる。
「気をつけないと心霊現象と間違われますよ」
男は建物の周りをウロウロして、何回かシャッターを切っている。
「…ねぇ、れいな。あそこの窓…」
「?」
藤本先生がれいなの肩を叩きながら小さく2階の窓を指差す。
窓がどうかしたのかな?
「なんか動いた気がしたんだけど…」
「え…!?」
「なーんて、ウッソー」
「ちょ…からかわんでくださいよ」
「初めての出動だから緊張してるかと思って。リラックスリラックス」
「逆に緊張しましたって…」
「うぁぁあああぁ!?」
いきなり男が悲鳴を上げた。
何事かと見てみると、男のまわりを覆うように黒い影みたいなものがまとわりついていた。
「な…あれは…!?」
「トーテ! 私たちの敵だよ」
『ミキティー、れいな! 一般人を救出!』
リーダーの声が頭に大音量で届く。
「オッケー…!」
「は、はい!」
れいなと藤本先生は茂みから飛び出して、玄関先で必死にトーテを払おうと、もがいている男に駆け寄った。
「ぅおらっ!」
「えぇぇぇぇ!?」
いきなり藤本先生が男ごとトーテを切った。
なんてことを!
救助するどころかザックリ一刀両断!?
「私はヤツを殺るから、れいなはあの人を逃がして!」
「は…え?」
焦ってるれいなをまったく気にせず、藤本先生は男から離れたトーテに意識を集中させている。
逃がしてと言われても、さっき思いっきりトーテごと切ってたんじゃ…って、あれー?
ちょっとしたショック状態で地面にへたり込んでいるその人には傷ひとつない。
どういうことだろう?
『れいな! 早く!』
「わ…! あ、ハイ…」
考え込んでたらリーダーに注意されてしまった。
そうだ、今は急がないと…。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
れいなは屈んで男に声をかけた。
「あ…なんなんだ? いきなり、見えない…何かにまとわりつかれて」
混乱しているのか、会話がまったくかみ合わない。
「あの…だから早くここから…」
「なにがなんだか…」
「いーから早くそれ(車)乗って家へ帰って二度とここに来るな!!」
ちょっとイラっとしたので、つい男の胸倉を掴んで言ってしまった。
すると、そいつはちょっとよろけながら車に乗り込んで初心者でもしないような急発進でこの場から去って行った。
よし!
「がっ!」
「!?」
れいなが与えられた任務を終えた瞬間、何かが崩れる大きな音と藤本先生の苦しそうな声が聞こえた。
「藤本先生!」
れいなは崩れた家の壁に埋もれている藤本先生に駆け寄った。
「くっそ、あのやろー!」
「だいじょぶっすか!?」
「だい…丈夫じゃないな、左手…」
見ると、藤本先生の左手は血まみれで、明らかに重傷だ。
『しっかり受身取らないからだよ、ミキティー。落ち着いて相手の攻撃を…』
「れいな、援護して!」
「えっ?」
『あ、ちょっと…!』
リーダーの声を無視して、藤本先生は右手を振り上げながらまたトーテに突っ込んでいった。
援護?
援護してって言われても…とりあえず、撃ってみればいい…んだよね。
「はっ! ぅおりゃ!」
『ミキティー、だからさっきから言うように…!』
トーテに向かって照準を合わせる。
一度ゆっくり深呼吸をして、息を止める。
藤本先生に当てないように…。
トーテだけを狙って……。
ドォン!
「うわ!」
「あ…」
弾はトーテに当たった。
藤本先生の頬を掠めて。
「くっ! どぉりゃ!」
一瞬、藤本先生に睨まれたけど、すぐに先生はトーテの方を向き、とどめを刺した。
うわぁ〜、やば…。
先生の頬(弾掠ったとこ)から血が出てるよ…。
「ちょっと、れいな! 危ないじゃん!」
「す、すみませ…」
「一般人に害はあたえられないけど、ツァオベリンはあんたの弾食らったら死ぬんだよ!」
あ、そうか。
だから最初のあのとき、男ごとトーテを切っても大丈夫だったんだ。
「こら、聞いてる? 何、ひとりで「納得〜」みたいな顔してんの! ほら、反省!」
『反省するのはミキティーもでしょ!!』
「ひぃ! ご、ごっちん…」
『アタシ、何回も言ったじゃん! 敵の動きをよく見ろって! そんな大怪我して…いつかホントに…れいなにやられる前に死んじゃうんだかんね!』
ちょっと聞き捨てなら無い言葉があったけど、リーダーの言葉はその通りだと思った。
あんな猪突猛進な戦い方は危なすぎる。
ま、れいなも色々反省点はあるけど。
『とりあえず、今日は解散。この反省会は3日後の月曜日にやるからね。放課後、部室に集合するように』
「は〜い」
「ハイ」
そんなこんなで、れいなのツァオベリンとしての初出動はグダグダで終わった。
【ROUND-3】
家に帰ってすぐに、れいなはリビングのソファーに倒れ込んだ。
なんか、一気に気が抜けた。
ツァオベリン。
トーテ。
藤本先生。
怪我。
血。
あれから藤本先生はタクシーを呼んで、れいなを家まで送ったあと(早く病院に行って欲しかったので断ったのだが、「こんなところにひとりで置いていけるわけないでしょ」と強引に乗せられた。)、夜間病院に行ったけど。
大丈夫だったかな?
すごい量の出血だったし。
さすがに切断とかには…ならないよね…?
月曜日…。
藤本先生の怪我を見たら、うるさいほど心配しまくるんだろうな…。
さゆ。
そういえば、ずっとケータイほったらかしだった。
れいなはソファーに寝そべったまま鞄を引きずり寄せて、ケータイを取り出した。
着信が一件入っている。
さゆ 21:02
今の時刻はもう午前0時を回ったところだ。
もう寝てるかな?
いや、明日休みだからまだ起きてるかも…。
微妙なところだったので、とりあえずメールをしてみた。
すると、すぐに返事が返ってくる。
「今日、どうしたのかと思って」
れいなが朝からずっとさゆのことを避けて、放課後すぐにいなくなってしまったから。
とりあえず、部活に入ったことを伝えた。
「ミステリー研究会? こんな時間まで活動してたの?」
質問ばっかりだな、さゆ…。
あぁ、なんだかもう、怒ってたのとかどーでもよくなってきたかも。
さゆに、部活はすぐ終わったけど、ただケータイほったらかしてただけだと書いてメールを返した。
またすぐにメールがくるかと思ってたけど、なかなか返ってこない。
まぁ、いいや。
眠くなってきたし…。
………あ、メールが来た。
でも、ダメだ…眠すぎる……。
れいなは眠気に勝てず、メールを見る前に力尽きてしまった。
☆★次回予告☆★
はい。 とゆーことで、藤本でーす。
いや〜、今回はやっちゃったね。
自分の体からこんなに血が出るとは思わなかったよ。
ホント、気をつけないとな。
次回、平成RPG 第5話
『ウソつきは混乱の始まり』
朝娘町を守るため。
こればっかりは仕方ないんだよね。
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