平成RPG
◆ LEVEL 5 ◆
ウソつきは混乱の始まり
【ROUND-1】
ふと目が覚めると、もう昼の11時だった。
うわ。
れいな、半日も寝とった。
ソファーから起き上がって伸びをしたら、ゴトンとケータイが床に落ちた。
あっ!
そーいえば、昨日さゆからのメール見ないで寝ちゃったんだった。
拾い上げて見てみると、画面は待ち受けではなく、メール画面になっていた。
ホントに見る直前に寝たんだなぁ…。
そして、その画面にはひとこと。
「今から電話してもいい?」
あーー……。
寝てた………。
ばかだ、れいな。
ホントにばかだ。
どうしよ…。
しかも、もう昼だし。
……………。
…………。
うん。
とりあえず、何か食べてから考えよう。
頭が回らない。
あ、冷蔵庫…なにもないんだよな…。
…しかたない、コンビニに行くか。
【ROUND-2】
昨日、意を決してれいなに電話してみたけど出なくて。
ずっとケータイを握り締めて待っていたけど、何も返ってこなくて。
でも、もう一度電話をかける勇気もなくてやきもきしながら待っていたら、夜中にやっとメールがきた。
またしばらく悩んで、電話かけてもいい? ってメールしたら…。
何も返ってこなかった。
どうしてだろう。
メールはいいけど、電話で話すのはイヤなのかな?
結局朝になって、すぐにケータイを確認したけど、やっぱりメールも、もちろん電話もなくて。
さゆはすごく落ち込みました。
どうしよう。
どうしてだろう。
もう一度、さゆからメールしてみようか。
でも、なんて?
直接家に行ってみようか。
それこそ、どんな顔で?
ぐるぐる考えていたら、いつの間にかもうお昼。
あんまり味がわからないご飯をのろのろ食べて、リビングでぼんやりしていると、ママにお使いを頼まれた。
気分転換に外の空気を吸うのもいいかもしれない。
さゆは、ママからお金を預かって、家を出た。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
「はぁ…」
家を出てくるときによく買い物メモを見なかったのを少し後悔した。
ママったら、なんでこんなに重いものばっかり…。
さゆは休憩しようと、この間貧血で倒れたっていう公園に来た。
あのときは、れいなのためにお茶を買いに行って。
暗くて、怖くて。
そして、気がついたら自分の部屋で寝ていた。
さゆ、今まで貧血で倒れたりなんかしたことなかったのに。
ベンチに座って、ぼんやりとつま先を見ていたらさゆの前に誰かが来た。
「…?」
無視しててもその場から動かないから、さゆは顔を上げてその人を見上げた。
「…――っ!?」
れいな。
れいなだ。
目の前にれいながいる。
なんで?
れいなの右手にはコンビニの袋。
そっか、またご飯、コンビニで済ますつもりなんだ。
栄養片寄っちゃうよ。
「なにしてんの?」
れいなに声をかけられて、さゆはさっきから黙ったままだったのを思い出した。
「え…と、ママのおつかいに来て…。疲れたからちょっと休憩…」
「そ」
「……………」
「……………」
「…っと…」
「ん?」
「ずっとずっと、どうしようか悩んでてっ…、また、れいなに「カンケーない」って言われるのがすごく怖かった…」
さゆはれいなの膝を見ながら言った。
「…なんか…色々ごめん」
れいなは一回深呼吸をしてから、つぶやくように言った。
「こっちこそ…ごめんなさい」
「昨日、寝ちゃってた」
「ん…さゆの…返信が、遅かったから……っ…」
「ちょ! な、どーして…!」
話してるうちに、なんか色んな気持ちがぐるぐる溢れてきて。
それは、涙になって外に出てきた。
「だっ、だって…もう、二度と…こんな風に話せないかと…思って…」
「…そんな…」
「…れぇな…これからも、友達でいて…」
「だっ! 恥ずかしいコトゆーな!」
ふたりで笑い合う。
懐かしい、感覚。
こんなにも大切な気持ち、想いを、さゆは失ってしまうとこだったんだ。
「そーいえば、さゆってココア好きだっけ?」
「? うん」
「うちにあるんだけど、取りに来ない?」
「れいな、ココアなんて買ったの? 飲まないくせに」
「いや、もらったの」
「ふーん。じゃ、行こうかな」
「ん」
れいなはさゆの横に置いてあった買い物袋を持ち上げた。
「あ…」
そのまま振り向きもしないで、すたすたと歩き始める。
さゆは、ありがとうって言う代わりにれいなの腕に抱きついた。
【ROUND-3】
「ってわけで。骨には異常なし。全治2週間」
「もう…呆れてものが言えないよ」
休日だってのに私は学校に呼び出しをくらい、ケガの様子をリーダー・ごっちんに報告していた。
「出血は派手だったけど、結構軽傷だよね」
「全治2週間のどこが軽傷なのさ! そんな包帯まみれの手して!」
「まぁまぁ。攻撃は最大の防御ってゆーじゃん」
「ほどってもんがあるでしょ!! ミキティーはもっとチームワークってものを大切にしなきゃ! れいなのためにも」
最後の一言はいつもの怒鳴り声じゃなくて、なんてゆーか、少し悲壮感が混ざっていた気がした。
「れいなのため…?」
「れいなのツァオバー・クラフトは『集中』。 的(トーテ)に集中すればするほど命中力が上がるんだよ。強くイメージすれば目を瞑ってても、正反対の方向を向いててもその的に当てることができる。」
「発射したらどこまでも追いかけてくるミサイルみたいな?」
「あ、そうそう。そんな感じ。でも、それにはすごく時間がかかるの。『集中』の間、れいなはまったくの無防備になってしまう」
「あ…」
そうか、だから。
「その『集中』の間に私がれいなを守らなきゃいけないってことか」
「そう。今までみたいに暴走してらんないの」
「ぼ…暴走って…」
あ…まぁ、そうかもしれないけど。
「ミキティーのゲヴァルティヒ・メッサーよりもれいなのゲヴェーアの方が威力があるから、一撃必殺を確実に狙った作戦を」
「わかった、わかったって。それよりお腹すいたから、どっかご飯食べ行こうよ」
「んぁーもー! ミキティー!!」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
公園から帰ってきて、さゆの荷物を置いた後れいなの部屋でふたりでご飯を食べた。
「あ、そうだ。はいこれ」
冷蔵庫からココアを出してさゆに渡す。
「ありがと。…そーいえば…」
「ん?」
「これ貰ったって言ってたけど、だれに貰ったの?」
「藤本先生」
あ! やばい!
つい、ホントのことを言ってしまった。
「え!? なんで?」
「あ〜、なんか…藤本先生、ココア嫌いなのに間違って買っちゃったらしくて、ちょうどそこにれいなが通りかかって…」
「いつ?」
「ケンカした日の昼休み(ホントは放課後だけど)」
「あ…そう、なんだ」
微妙な空気。
さゆも気まずいのか、それ以上追求してこない。
あー…隠し事すんのって楽じゃないな…。
「そうだ。ねぇ、ミステリー研究会って、どんなことしてるの?」
うわ。
さゆ、明るい方向に話題変えたつもりなんだろうけど、れいなにとっては全然明るくない!
一難去ってまた一難か。
「え…と。き、企業秘密…」
「きぎょうひみつぅ?」
「あはははは…」
とりあえず笑ってごまかす作戦。
初めて自分の持ってる力を認識したとき、理事長に言われた注意事項。
一般人には絶対口外しないこと。
友達にも家族にも言っちゃだめ。
「他に部員とかいるの? どんな人たち?」
まだ? この尋問まだ続く?
「そりゃいるけど…言ってもさゆ分かんないよ」
「だれ?」
「じょ、上級生…」
って言っておけば、さゆが名前を聞いてきてもテキトーに答えられるし。
「部員て、何人くらいいるの?」
部員!?
えっと…研究会ってゆーくらいだから、だいたい…。
「えー…5…人くらい」
もう勘弁してくれないかな…。
さゆにこんなテキトーな嘘つくの初めてだから変に緊張してしまう。
「はっきりしないなぁ」
さゆがれいなの顔を覗き込んで言う。
がんばれいな。
目をそらしたら負けだ。
「あの、ほら。幽霊部員とかいるから」
「あ、なるほどね。 でも、なんでいきなりそんなのに入ったの? そんなにミステリーとか好きじゃなかったでしょ?」
「いや、ちょっと気分転換? あ、新しいことに挑戦しようかと思って…」
「ふ〜ん、そうなんだ」
さゆがふと目を逸らし、ココアのパックにストローを突き刺した。
はぁ。
とりあえず、この場は切り抜けられたかな。
この隙にさっさと違う話題を…
「さゆも入ろうかな」
「え?」
「ミステリー研究会」
えええええええ!?
「いや! いやいやいや。やめといた方がいいよ。思ったよりつまんないし、れいなも幽霊部員になるつもりだし」
「なーんだ。残念」
やばい。
このままずっと隠し通すのって、すごい大変…ってか、不可能かも……。
☆★次回予告☆★
はいどうも。 ティーチャー藤本です。
そういえば、まだ私の授業やってるとこ出てきてなくない?
ちゃんとそっちの仕事もがんばってるからね!
ってか、むしろそれが本業だって!
さゆとれいな、無事に仲直りできたみたいだね。
よかった、よかった。
ちゃんと秘密は守れよ、れいな。
次回、平成RPG 第6話
『あえて言うなら、運命?』
そんじゃ、みなさん。
はっぴぃ〜(棒読み)。
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