平成RPG
◆ LEVEL 6 ◆
あえて言うなら、運命?
【ROUND-1】
「よし。もう大丈夫だよ。手伝ってくれてありがとう、梨華ちゃん」
「ホントに? まだ箱残ってるよ?」
「あとは軽いものばっかりだし、それにもう吉澤さんのとこに行く時間でしょ?」
「そ…そうだけど。 絵里、ほんっとーに大丈夫? 何かあったらすぐに連絡してね」
「もー、大丈夫だって。そんなに心配しないで」
まだぶつぶつ言ってる心配性の梨華ちゃんの背中を押して、玄関に連れて行く。
「今度はいつ来れるか分かんないけど、なるべく…最低でも週2はここに帰るようにするからね」
「来なくていーよぉ。梨華ちゃん、向こうに居た方が通勤しやすいでしょ」
「それはそうだけど…。叔母さんにも絵里をよろしくって言われてるし」
「ハイハイ」
「ん。じゃあ、あたし行くけど。鍵とかちゃんとね」
「分かってるって! 行ってらっしゃい。今日はありがとね」
「うん。じゃあね」
梨華ちゃんが出て行って、部屋にひとりになるとなんだか急に寂しくなってきた。
ううん。
こんなことでヘコんでちゃだめだ。
あさっての始業式までには部屋をきれいにしとかないと。
絵里は足元にあった引越し屋のロゴがでかでかとプリントされているダンボールを開けて、荷解きを再開した。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「はぁ…疲れたぁ…」
だらしなくソファに倒れ込む。
何もツァオバー・クラフトでチームリーダー会議しなくても。
時計を見るともう午後4時を回っていて、それを見たら余計疲れた。
3時間以上も『交信』してたなんて…。
実際どこかひとつの場所に集まるより早いし、経済的だし、機密性も高いけど…。
体ってゆーか、精神がもたない。
「お疲れ様、梨華ちゃん。ごっちん元気だった?」
よっすぃーがココアの入ったマグカップをふたつ手に持って、キッチンから出てきた。
卵黄入りの本格的な特製ココアだ。
「ん〜、実際に会ってるわけじゃないから微妙だけど、声の感じは元気だったよ」
「今年度から朝娘(あさこ)支部のリーダーだもんね。これでうちらも少し楽になるね」
起き上がってマグカップを受け取ると、よっすぃーもあたしの隣に座った。
「まぁね。けど、ごっちん…うちの絵里をチームに入れるつもりだよ」
「へぇ。あのコを」
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、梨華ちゃんのイトコだもん」
よっすぃーがあたしの肩に寄り掛かりながら言った。
「すごい理屈…」
その髪からふわりと、ココアの甘い匂いがした。
【ROUND-2】
始業式からもう6日も経ったけど。
今日こそ行ってみよう。
絵里はそう心に決めて部室棟に向かった。
今までどうしようか悩んでたけど、やっぱり興味あるし。
ミステリー研究会。
もう目の前にはドアがある。
あとはノックをして、入るだけ。
深呼吸、深呼吸…。
………………。
…………。
よし、行こう。
「し、失礼しまぁす…」
ドアを開けると、部屋の中には3人。
後藤理事長(なんで?)と、藤本先生(も、なんで? 顧問?)と、そして……。
「待ってたよ!」
「ほ、ホントに来た…」
「ごっちん、すげー…」
「え、えっと…?」
なんだか微妙に話が見えない。
「君は来るべくしてここに来たんだ。ま、とりあえず座って」
「は、はあ…」
後藤理事長にすすめられて、椅子に座る。
「えっと、アタシのことは知ってるよね? 理事長の後藤真希だよ」
「あ、はい」
「よろしくね」
「よ、よろしく…?」
「で、そっちが」
「指差すなよ。あ、いや、差さないでください。私は1年生の数学担当してる藤本美貴。よろしく」
「はい、こちらこそ…」
「1年B組の、田中れいなです。よろしくお願いします」
「田中、れいな…」
「ハイ?」
「あ、ううん。よろしく…。あの、え…わたしは…」
「2年B組、亀井絵里ちゃんでしょ?」
「え?」
みんなにならって絵里も自己紹介しようとしたら、後藤理事長に言い当てられてしまった。
な、なんで??
「不思議そうな顔してるね。とりあえず、この部の活動内容やらなんやらを藤本先生が説明するから、よく聞いてて」
「な、なんで私が!」
「仕事だぞ、藤本くん」
「は…。もういいや。」
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
「えっと…絵里がその、ツァオベリンで…。みなさんもそうで…。町の平和を守る、と」
「まぁ、そんな感じ」
「じゃあ、さっき絵里のこととか…今日ここに来ることを知ってたりしたのは…」
「うん、そう」
「アタシのツァオバー・クラフトの『感知』でわかったの」
と、にこやかに後藤理事長が一言補足する。
なんだか、これ…。
もしかして絵里、からかわれてるのかな?
「よし、それじゃあ諸君、理事長室に移動!」
え??
なになに、なんで?
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
「はい、もう恒例となりつつあります。この中から「これ」って思うものを手に取ってみて」
後藤理事長がなんだか軽い調子で言ったけど…。
斧とか槍とかこれ本物? なわけないよね? ないって言ってください…。
わけも分からず、理事長室に連れてこられたと思ったら、いきなり大量の凶器を見せられて好きなのを選べって…。
一体、どういうことだろう。
後藤理事長はニコニコと絵里を見守ってるし、その横では藤本先生と田中さんが早く選べよ、みたいな顔で見てるし…。
と、とにかく…テキトーに選んじゃお。
う〜ん…っと。
これにしようかな。
この武器の中では少し浮いている、まわりに金の装飾がついた黒い本。
それにしてもこれ、すっごい厚さ…。
この角で殴られたら頭蓋骨カンボツしそ…。
そんなんだから相当重いだろうな、と思ったけど…。
なにこれ…軽すぎない?
「おめでとう! 絵里はシュヴァルツ・へクセだ。その本の名前はシュヴァルツ・ブーフだよ」
「シュ…ヴァルツ…へクセ?」
「そ。RPGで言う魔法使いだね」
ま、魔法使いぃ!?
そんなこと現実に……。
ないないない。あるわけない。
絵里…ミステリ研と演劇部の部室間違えたのかな?
「絵里は主にれいなを守ることになるかな」
「え!?」
後藤理事長の言葉に絵里は思わず大声を上げてしまった。
「田中さんを…守る?」
「そう。もちろんれいなだけじゃなくて、ミキティーも守ってもらうけど。よかったね、ミキティー。守り担当が入って」
「ちょっ! 待って、ごっちん。まだそのコ、チームに入るなんて一言も…」
「は、入ります!」
「はぁ?」
なんかもう、わかんないけど、田中さんの役に立てるなら。
絵里は、いっこ年下の田中さんに、ひとめぼれしてしまったのだ。
【ROUND-3】
町から少し外れた廃工場。
今は月も雲に隠れていて、周りには街灯もなくて真っ暗。
「ってか、今日も出動するなんて聞いてないんですけど?」
『うん。言ってないもん』
「な! 言ってないもんじゃねー! やっぱ『感知』できてたんじゃん!」
『あは! ドッキリ大成功?』
「命かかったドッキリなんていらんわー!」
「まぁまぁ、藤本先生。落ち着いてくださいよ」
さっき一度解散したと思ったら、夜にリーダーから呼び出しがかかって絵里たちは再び集合していた。
トーテとか、ツァオベリンとか、町の平和を守るとか。
これホントなのかな。
集合かかったから一応来てみたけど。
絵里はまだちょっと…信じられない、かな。
でも、これがもし全部冗談だったとしても、別にそれはそれでいいかなって。
田中さんと一緒にいられる時間が増えたってだけで、絵里はオールオッケー。
「ほら、先生が大人気ないから絵里が呆れてますよ」
「え!?」
ぼんやりしてたら、いきなり田中さんが会話をふってきた。
ってゆーか、いきなり、呼び捨て!
嬉しいやら、恥ずかしいやら。
じゃあ、絵里もれいなって呼んでいいのかな?
いんだよね?
なんか、一気に新密度上がった感じ!
「? 絵里?」
「あ、なんでもない! 大丈夫! オッケー」
「何が…?」
『3人共、もうすぐ出るよ』
「また心霊マニアが来るの? こないだのヤツだったらヤキ入れてる」
『いや、今回はここでトーテが生まれるんだ』
「生まれる?」
絵里もれいなと顔を見合わせて首を傾げる。
『何年か前にここで自殺した人の怨念が時間をかけて他のやつらも集めちゃって、ちょっとヤバげなヤツが…ね』
「そんな…」
『ソイツが町で人を襲い始める前に倒してほしいんだ』
「あれ…? そんなことまでわかるなら、道重が襲われる前にもこんな風に対処できたんじゃ?」
『ううん、ごめんミキティー。アタシの…いや、アタシたち『感知』の能力は完璧じゃないんだ。ずいぶん前にふと感じたり、ぎりぎりになってわかったり…。アタシはすべて見通せてるわけじゃないんだよ』
リーダーのさっきまでの明るい雰囲気が、厚いカーテンを引いたように暗くなった。
なんか、聞いちゃいけないことを、聞いてしまったような…。
そう感じたのはみんな同じだったらしくて、れいなも藤本先生もじっと押し黙ってしまった。
とても冗談とは思えない。
そもそもこんな、大掛かりすぎる。
やっぱり、これは全部現実で。
いままでの話全部、ホントのことなの?
『あ、士気を低めちゃったかな!? みんな、今からがんばらないとダメなんだからね! 気合を入れろぉ! ふぁいとー!!』
「ぶはっ! そんなんで士気上がんないって、ごっちん」
『あは、そうかな? あ、みんなそのへん。注意して』
雲が晴れて、少し視界が良くなった瞬間。
目の前の空間に、小さく闇が残った。
そして、それはだんだんと大きくなっていく。
なに、あれ?
「出たな!」
『ミキティー、十分注意して!』
「わかってる!」
藤本先生はその影に向かって突進し、片手でゲヴァルティヒ・メッサーを振る。
本当は二刀の武器らしいけど、今左手には痛々しいほどの包帯が巻かれていて。
「ちっ! はずした!?」
「この前のより動きが早い!」
れいなもゲヴェーアで攻撃するけど、『集中』しきれないのか、弾は1発も当たらない。
「くっ…! 追いきれない!」
影は瞬間移動するみたいに色んな場所に移動する。
ウソ…。
まるで、SF映画を見てるみたい。
でもこれは現実。
夢なんかじゃない。
全部、全部…本当。
『絵里! 本を開いて読むんだ!』
「え、あ! はい!」
こうなったら、ぼーっとしてる場合じゃない。
絵里も戦いに参加しないと。
でも、読むって…?
とりあえず本の表紙をめくってみる。
すると、勝手にパラパラとページがめくれていって真ん中くらいで止まった。
なにこれ。
日本語じゃない…。
それどころか見たことすらない文字が金色に浮かび上がっている。
でも。
読める!
「――――――。…闇より深い世界へ! <イゾリーレン>!!」
唱えると、トーテの周りにそれよりも深い、黒い影が出現した。
「うわ! なにこれなにこれ!? 絵里!?」
「大丈夫です! トーテはその影(サークル)の中から出られません!」
「おぉ。 即席袋のねずみか」
「すみません、ちなみに藤本先生もそこから出られません!」
絵里が作り出した影はばっちり藤本先生も巻き込んでしまっていた。
「ばかー!!」
「すみません…」
解くのは簡単にできるけど、一度発動させてしまったので、また同じことをするには時間がかかってしまう。
トーテだけを狙ったつもりなのにな…。
ちょっと、力の加減が難しいかも。
『れいな! 今のうちに『集中』して!』
「あ、はい!」
『ミキティー、絵里! れいなの『集中』が終わるまでなんとか持ちこたえて!』
「ハイハイ」
「わかりました!」
頭の中で影(サークル)を保つイメージを強める。
藤本先生が危なくなったらすぐにトーテから離れられるように、解くのも一瞬でできるように注意しながら。
「ぐぅ…くそ! 左手が…!」
「先生!?」
「まだ解くな! 大丈夫。できるだけヤツにダメージを与えてやる!」
「でもっ…!」
藤本先生は頭や腕からだらだらと血を流していて、全然大丈夫には見えない。
それに…絵里も、もうそろそろ…限界…。
意識が途切れそうになった瞬間。
大きな爆発音と共に、真っ白な閃光が走った。
それはトーテに命中し、その存在を消し去った。
れいな。
後ろを振り向くと、れいながゲヴェーアを構えた体勢で立っていた。
「このっ! びっくりするじゃん! 撃つときは撃つって言えよ!」
「あ…すみません」
「れいな、すごい…」
「え、いや…絵里の魔法(?)の方がすごいって」
「すごいすごいすごい!! さすがれいなだね! 絵里、これかられいなのためにがんばるから!」
「は? いや、え?」
『おぉ。やっぱりこーゆー展開になったか』
「え、ごっちん…こんなことまで分かってたの?」
『まさか。ただの勘だよ』
「…あっそ。…なーんか、すごく…濃いチームに、なった…な……」
『あれ? ミキティー?』
「……………」
『うわー! ふたりとも! イチャついてる場合じゃないよ! ミキティーが出血多量で倒れたー!!』
「え!? ちょ! 先生!? しっかりしてください!」
「早く病院行かないと! た、タクシータクシー!!」
そんなこんなで、今まで生きてきた中で一番バタバタとした絵里の一日が終わった。
☆★次回予告☆★
ども。 すっかり怪我キャラの藤本です。
気をつけてても怪我するときゃするんだよ。
しょーがない!
そういえば、絵里って梨華ちゃんのイトコだったんだって?
私、普通に初対面みたいな挨拶しちゃったよ。
まぁ、実際会ったことも…あるような…ないような…?
うん!
とにかく、これからよろしく!
次回、平成RPG 第7話
『夕焼けの中の白い世界』
え、なに? またトーテ?
怪我治るまで待ってよ…。
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