平成RPG
◆ LEVEL 7 ◆
夕焼けの中の白の世界
【ROUND-1】
「藤本先生、なんかすごくケガしてたね。どうしたんだろ?」
「さぁ? どっかの野良犬とケンカでもしたんじゃない?」
お昼休み。
れいなはお弁当のパンにかじりつきながら、興味なさげに答えた。
「の、野良犬って…」
「それか、どっかのゾクとやりあったとか」
「ゾク?」
「…なんでもない」
「? でも、今日こそちゃんとお礼言いに行かなくちゃ」
「お礼?」
「貧血で倒れたときに家まで運んでくれたお礼」
「あ…あぁ。」
れいながそんなこともあったなぁ、なんて顔をしながら食べ終わったパンの袋をくしゃっと丸めた。
それ、口に詰め込みすぎじゃない?
「れいなー!」
「ぶはっ! ごほっ!」
「きゃー、れいな汚い!」
いきなり誰かが教室の入り口かられいなの名前を叫んだから、びっくりしたれいながそこら中にパンのカスを口から飛び散らした。
ちょっと…。思いっきりさゆにもかかったんですけど…。
「げほっ…あ、さゆゴホッ! ごめ…」
「れいなっ! 早くー!」
「わかっ…もう、絵里! 大声でひとの名前呼ぶな!」
絵里?
「だれ?」
「へ? あぁ。部活の先輩…。ちょっと行ってくる」
そう言ってれいなはその絵里ってコの方へ走り寄って、それからふたりでどこかに行ってしまった。
もっと話したいこといっぱいあったのにな。
放課後もいつの間にかどっか行っちゃって、電話しても出ないし。
それかられいなは昼休みが終わるまで教室に戻ってこなかった。
次の日も。
その次の日も。
そして、今日もそう。
今日は一緒に帰ろうって言ってみたけど。
活動があるから先に帰っててだって。
幽霊部員になるって言ってたのに…。
【ROUND-2】
今日もさゆと一緒に帰れなかったな。
ま、しょうがないっちゃしょうがない…けど。
「あの」
「ん?」
「なんで…ずっとれいなにくっいてるんすか」
「絵里がくっつきたいから」
「…………」
「いや〜、若いっていいねぇ」
部室の隅っこでニヤニヤしながら藤本先生が言う。
なんて、れいなに対して思いやりのない発言をするんだ。
「みんな! 出動準備できてる? まだ夕方だけど、今日はもう来るよ!」
藤本先生に文句を言おうとした矢先、リーダーがドアをぶち壊しそうな勢いで入ってきた。
「オッケーだよ、ごっちん。場所は?」
「この前と同じ、朝娘神社の近くの公園だよ!」
このときからなんとなく、嫌な予感はしてたんだけどね。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
歩くよりも早いし楽だからということで、私の車で公園まで移動した。
1回目の出動のときもってゆーか、そのときからこうしとけばよかったんだよね。
「着いたよ、ごっちん。今日はどんな任務? 襲われる人の救出? 生まれるトーテ撃退?」
『えっと…非常に言いにくいのですが…前者です』
? そんなの今までフツーに言ってたじゃん。
どこが言いにくいことなんだ?
「! さゆ!」
「え?」
れいなが指差した方向を見ると、遊歩道沿いに置かれたベンチに座っている人影が。
まさか…今回も…?
『ミキティー、くれぐれも落ちついていってね…!』
「わ…わかってる、よ…。」
『れいなもね』
「…はい」
「あ! 先生、れいな、あれトーテじゃない?」
「行くぞ!」
「「はい!」」
3人で道重の方へ全力疾走する。
道重はうつむいていて、事態の大変さに気付いていない。
「道重―!」
「え? 藤本先生…? れいなも…。な、なんですか?」
「さゆっ! とにかく今すぐここから…―」
「ふたりとも! 来ます!」
間に合わない!
トーテが道重に接触する寸前、私は右手に持ったゲヴァルティヒ・メッサーを力いっぱいトーテに投げつけた。
少し後退したところにれいなが発砲。
私の攻撃もれいなの弾も当たらなかったが、道重との距離は取れた。
私は道重とトーテの間に入り、左手だけ構える。
さっき投げたゲヴァルティヒ・メッサーは遠くの街路樹に突き刺さっていて(すいません。緊急事態なんです)取りに行く余裕はない。
「絵里! <イゾリーレン>でトーテを隔離! 道重に絶対に接触させるな!」
「は、はい! ―――――…」
「藤本先生!」
「!?」
絵里の詠唱が終わらないうちにトーテが私に向かって高速で移動した。
このヤロウ。
道重を狙ってんのか!?
この位置だとれいなも<イゾリーレン>の影(サークル)に巻き込まれてしまう。
さっき投げたゲヴァルティヒ・メッサーを取りに行くと間に合わないし、片手だけで…!
道重の魂が欲しいなら、この美貴さまを倒してからにするんだな!
「…ぐっ!」
トーテの衝撃派を受けてから気付いた。
私、左手…怪我してたんだった!
「先生!」
「え? なに? みんな…何してるの? え!? 藤本先生、血が!」
「いいから…。道重…早くここから…うわっ!」
トーテから目を離した一瞬、新たな攻撃が来て、私は木の葉のように吹っ飛ばされた。
体のあちこちが痛い。
いや、全体的に痛い。
「先生―!」
『ミキティー!?』
あ、だめだコレ…。
意識……―。
「藤本先生!!」
……道重…?
いいから…逃げろって……言ってん…のに…。
『!? な、なんだこれ!? ヴァイス・ブーフがっ!』
ごっちんの声が聞こえたと思ったら、なんか目の前が真っ白になった。
あれ?
ちょ、これ…天国?
私、天国来ちゃった…?
「藤本先生! しっかりしてー!!」
道重?
「…あれ?」
怪我が…治ってる?
なんで?
「…先生」
「道重…?」
「…くっ! 先生! 早く…れいなだけじゃ…!」
そうだ、ぼーっとしてる場合じゃない。
私が生死の境を彷徨っている間、れいなひとりでトーテと戦っていたんだ。
絵里の声に気を取り戻して、私はトーテに向かって走り込んだ。
「消えろぉっ!!」
れいなの攻撃にひるんだところを一刀両断。
影のかけらひとつ残らず消滅するまで見届ける。
よし、確実に倒したな。
「ふう…」
「はぁ…疲れた……」
私のため息にれいなが続いた。
なんか、ものすごい疲れようだな。
「ってゆーか、さゆ。その本…」
絵里が道重に近づきながら言った。
あれ? 絵里とさゆって面識あったのかな?
「え? えっと…」
「あ、亀井絵里です。あなたのことはれいなに聞いてたから」
「あ、そうなんだ…」
なるほどね。
「で、それ…」
「んと、なんだかわかんないけど…藤本先生が…さゆのせいですごいケガしちゃったみたいだから…」
『一気に力が覚醒したんだね。おめでとう、さゆ! 君は『チーム・ごっちん』の4人目のメンバーだ!』
「『チーム・ごっちん』…?」
『ミキティー』
「ハイハイ、説明すりゃいーんでしょ。まったく、ごっちんは人づかいが――」
ドサッ!
「?」
音のしたほうを振り向くと、そこにはさっきから一言もしゃべってなかったれいなが倒れていた。
「きゃー!! れいなー!」
絵里が駆け寄って抱きかかえる。
私と道重もそこに駆け寄った。
『ツァオバー・クラフトを限界まで使ったんだ。れいなのゲヴェーアの限界弾数は12発か』
「なっ…限界までって…」
『だれかさんが無茶した上に、敵に吹っ飛ばされて気を失ってる最中、ずっとがんばってたからねぇ』
「そ…、だって…。ねぇ、ごっちん。れいなは大丈夫なの?」
『全然大丈夫。寝てるだけだよ。個人差はあるけど、明日の昼くらいには目が覚めるんじゃないかな』
「ひ、昼!?」
絵里が叫ぶ。
『うん。起きるまで何しても起きないと思う。こればっかりはね…。明日が土曜日でよかったよかった』
「何しても…起きない…」
『……絵里。いかがわしいこと考えてない?』
「なっ! なーに言ってんですか! そんなことぜんぜんぜんぜん考えてないですよ!」
「えっと…」
さゆが困惑顔で私を見上げてきた。
そうだよね。
なにがなんだかわからないよね。
「とりあえず、あとで全部ゆっくり説明するよ。とにかく今はれいなを家まで送って行かなきゃ」
【ROUND-3】
あれから私は、れいなをおぶって車まで運んだところで、れいなの家を知らないことに気付いた。
一週間前にタクシーで送ったときは周りも暗かったし、手も痛かったしで場所なんか覚えちゃいない。
そのことを言ったら、さゆが道案内をすると言い出した。
そうだよね、仲いいもんねって思って話を聞いてたら、思っきしお向かいさん同士だった。
んだよ、れいな。
お前、さゆと幼馴染か!
聞いてないぞ、私はっ!
って、当たり前か。
私が道重のこと…その…好きだなんて、ごっちんしか知らないことだし…。
っつーか、知られちゃだめじゃん!
そもそもそれが原因で(色んなトコにバラす→教師クビ→人生終わり。ってな感じで脅迫された)私こんなことやらされてんだよ。
はぁ…。
ま、そんなこんなで(?)今、ごっちんを含めた私たち5人はれいなの部屋にいる。
「れいなの寝顔、かーわいー」
ベッドで眠るれいなの頬をつつきながら絵里が言う。
なに変態みたいなことしてんだか…。
「あ、あの藤本先生…」
「ん?」
「えっと…さっきの、ことなんですけど…」
「あぁ、ハイハイ」
私はさゆにトーテの存在、ツァオバー・クラフトという特別な力、それを使うツァオベリンのことなどを説明した。
私は2本のでかいナイフ、ゲヴァルティヒ・メッサーを使うリッター。
れいなは黒に白の装飾が入った銃、ゲヴェーアを使うシーセンダー。
絵里は黒に金の模様が入っている本、シュヴァルツ・ブーフを使うシュヴァルツ・ヘクセ。
ごっちんは武器を必要としない『感知』の能力を持つ、プロフェーティン。
「で、さゆのソレはヴァイス・ブーフ。 その本を持つ能力者をヴァイス・ヘクセってゆーんだ」
ごっちんが私の説明に補足する。
「ヴァイス・ヘクセ…」
「主に傷を治したり癒したりできるんだよ」
「あ! じゃあ、れいなも助けれたりする?」
ずっとれいなで遊んでいた絵里が会話に参加してくる。
「うん。そのはずだよ。さゆ、やってみて」
「え、どうやればいいんですか?」
「れいなを治したいって思いながら本を開いてみて」
ごっちんに言われたとおり道重が本を開くと、ページが何枚か勝手にめくれた。
「? これ…何語…?」
「でも、読めるでしょ?」
「は、はい! …ふしぎ〜」
私は道重に近づいて本を覗き込んでみた。
あれ?
「どこに文字なんて書いてあんの? 真っ白じゃん」
「その本はさゆの適合武器だから、他の人にとってはただの真っ白い本なんだよ」
「ふ〜ん」
「え、えっと…これ、読めばいいんですよね…?」
「うん」
道重は立ち上がってれいなの寝ているベッドに近寄り、右手をかざした。
絵里の詠唱と同じように何言ってんだか聞き取れない呪文をとなえ始める。
「―――――――。…天界の加護を。ベッセルング!」
言い終わると道重の手から白い優しい光がれいになに降り注いだ。
あ、さっき私がみたのはこの光だったのか。
「…………」
「れいな、起きないね」
「ホントにぎりぎりまでツァオバー・クラフトを使ったんだね。でも、もうすぐ目を覚ますんじゃないかな」
「そういえば、さっきさゆ…詠唱してたっけ?」
絵里がさゆの本を覗き込みながら言う。
見ても絵里にはその本の文字は見えないだろって。
「さっき?」
「藤本先生のケガを治したとき」
「えっと…してない、かも」
「ん〜、トランス状態ってヤツだったのかな。相当必死だったんだねぇ、さゆ」
ごっちんが私の顔を見て言う。
なんてヤツだ。
「え!? あ、だって…」
さゆが顔を真っ赤にしてうろたえる。
あ、あれ?
何その反応。
もしかして道重も私のこと……なわけないよね。
ないないないない。
変な期待すんのやめよ!
違ったらめちゃくちゃヘコむし。
「「だって」…何?」
さらにごっちんが突っ込む。
やめてください。
拷問だよ、これは。
こうなったら強引にでも止めないと、この話題は終わらない。
「あー! ってか、もう9時になるじゃん! やっばい、私明日の授業の準備しなきゃ!」
「明日って…土曜日じゃん、ミキティー」
「あ、いや、月曜! 月曜のね」
「じゃあ、さゆもそろそろ帰ろうかな!」
「ハイ、じゃ、そーゆーことで今日は解散ね!」
言いながら、ごっちんを無理やり立たせて耳打ちをする。
「(ごっちん、ちょっとこれからふたりで話そう)」
「(えー。アタシ用事があるんだけどなぁ…)」
「(いーからっ!)」
「何ないしょ話してるんですか?」
「いや、なんでもないよ! ほら、絵里も家まで私の車で送ってくから」
「えー! 今日はれいなんトコに泊まります」
「んな、無断外泊許しません。親だって心配するだろ」
「絵里、イトコの人と二人暮らしだもん」
「いや、だからその人が心配するでしょーが」
「だって、ほぼ毎日恋人の家に居るから。絵里、一人暮らしみたいなもんだし」
そうですかい。
「まぁまぁ、ミキティー。一泊くらいいーじゃん?」
「はぁ。…でも一応連絡はしときなよ」
「はぁい」
「じゃ、道重。行くよ」
「はっ、はい!」
隣でニヤニヤしてるごっちんを力いっぱい無視して私たちはれいなの家を出た。
今日はすごく疲れた。
色んな意味で。
れいなみたいにぶっ倒れそうだよ…。
☆★次回予告☆★
はいはい。 藤本でーす。
ごっちんのヤロウ、いい感じで引っ掻き回してくれたな…。
もー、どーすりゃいいんだ!
って、え!? 次回はもっとヤバイ!??
次回、平成RPG 第8話
『休日の敵は想い人』
気付いてほしいけど、気付かれたらまずいし。
あ゛ー!!
|