平成RPG

◆ LEVEL 8 ◆
休日の敵は想い人




  【ROUND-1】


 「まさか、さゆまでツァオベリンになるなんて…」

 今までがんばって隠してきたきたれいなの努力がなかったことに…。


 れいなは先週の金曜日に新しく『チームごっちん』のメンバーになったさゆとふたり、教室の隅で昼ご飯を食べながら、ひそひそと会話している。

 さゆだけじゃなくて、クラスメイトにだってバレたらヤバイし…。


 「びっくりだよね〜。今思うと、れいながいつも持ってた銃…ゲヴェーア? も、すごくおかしいよね。学校にそんなの持ってきてても変に思わなかったもん」
 「あぁ、なんか特殊な武器だから。一般人にとってはアクセサリー程度にしか認知できないようになってるんだって」
 「なんか、ホントにゲームみたいだね」

 のんきにニコっと笑う。


 「命がけのリアルなゲームだけどね」
 「あ、そういえば、藤本先生のあのケガも…」
 「そうだよ。あれは野良犬とケンカしてできた傷なんかじゃなくて、トーテとの戦いでできた傷」
 「………そう、だったんだ」


 今度は不安げに顔を曇らせる。

 ちょっと脅しすぎたかな…。

 「でも、今はさゆがいるからもう大丈夫だね」
 「え?」
 「この間、さゆの力で一気に藤本先生のケガが治ったじゃん。この前の借りを返すどころか、お釣りが来るくらいの」
 「あ…あーー!!」

 さゆが突然叫んで椅子から立ち上がった。
 後ろで派手に椅子が床に転がる。


 「なっ、なん!? びっくりした…」
 「れいな、どーしよー!」
 「は!?」
 「さゆ、まだ藤本先生にお礼言ってないの!」
 「…はぁ!? いや、だから、それはチャラになったんじゃないって今れいなが…」
 「それとこれとはやっぱ別だよ…」

 椅子を直して座りなおす。

 変なとこ真面目だなぁ。


 「ってか、れいなは寝てて知らんけど、先週の金曜、れいなの家にみんな集まってたんでしょ? なんでそんときとかに言わんかったと?」
 「…だ、だって…」

 顔を赤らめてうつむいてしまった。
 なんだ、忘れてたのか?

 「じゃー、今言ってくれば? まだ休み時間に余裕あるんだし」
 「え…れ、れいな付いてきてよ」
 「あ? なんでれいなも」
 「き、緊張…しちゃうから…」
 「……………さゆ、「緊張」なんて言葉、よく知ってたね」

 これ、世界滅亡しないかな?
 大丈夫かな?

 「れいな、ひどーいぃ!」
 「はいはい、すみません」
 「……あのね」
 「ん?」
 「この間中、さゆ、ずっと藤本先生のこと探してたでしょ?」


 れいなとさゆがケンカしていた、入学式のあった先々週の話だ。
 休み時間ごとに職員室に行ったり、れいなにまで探すの手伝わせたり。

 「そのときね、すれ違って会えなかったって言ってたけど…ホントは会えてたの」
 「…えぇ?」
 「あ、ううん。見つけたけど、会いに行けなかったってゆーか…」
 「はい?」
 「えっと…なんか急に恥ずかしくなってきちゃって…」
 「オマエは小学生か!」
 「だってぇ〜」


 なんか、さゆの意外な一面が見れた。

 こりゃ、ホントの本気なんだなぁ。



  ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★



 「この間はよかったね」
 「何が?」

 アタシは今、ミキティーを理事長室に誘って一緒にお昼ご飯を食べている。

 ミキティーはコンビニのお弁当をほおばりながら、くぐもった声で聞いた。

 そりゃ、あんた。
 この間のよかったことなんてひとつしかないじゃん!


 「さゆに助けてもらえて」
 「う…、あぁ、まぁね」
 「さゆがいれば、ミキティーのケガもすぐに治してもらえるね」
 「ってか、さゆのことは『感知』できなかったの?」


 箸を置いて、お茶に手を伸ばす。
 アタシも半分減ったコーヒー牛乳をひとくち飲んで答えた。


 「うん。元々素質を持ってたみたいだけど、アタシの『感知』じゃ分からないくらい小さなツァオバー・クラフトだったんだ。あの瞬間に覚醒したんだね。まさに愛のパワー?」
 「かっ! からかわないでよ!」

 お茶が気管に入ってしまったのか、ミキティーは激しくむせた。
 急に大きな声だすからだよ〜。

 ホント、ミキティーは奥手でかわいいなぁ。


 「けほ…、はぁ。…そーいえば。おとつい、金曜の夜に言おうと思ってたけどさぁ!」
 「ん?」
 「あんまし引っ掻き回さないでよ。あの、れいなの家での発言の数々! すぐに言おうと思ってたんだけど、いつの間にかごっちん、どっか行っちゃうしさぁ」

 あ〜。
 だって、ホントに用事あったんだもん。


 「とにかくもう、ほっといてね」
 「え? ごめん、聞こえない」
 「このぉ」
 「あはははは!」

 そうやってミキティーとじゃれあているうちに、昼休み終了のチャイムが鳴った。




  【ROUND-2】


 放課後、さゆと一緒に部室に行くと、部屋には絵里がひとりでいた。
 理事長はたまにしか来ないけど、藤本先生はどうしたんだろう。

 「先生は職会だって。終わったら一応来るって言ってたけど、今日は出動ないみたいだからみんなは帰ってもいいって言ってたよ」
 「なんだ。じゃあ、メールで連絡とかくれれば…」
 「なーに言ってんのぉ! れいなに会いたかったから、絵里はわざわざここで待ってたんじゃーん!」


 言って、絵里が抱きついてきた。
 なんとかならないかな、この人のこのテンション。


 「藤本先生くるんならそれまで待ってようか」

 絵里の顔面を鷲掴みにして引き離しながらさゆに言った。


 「え? なにそれ? どーゆーこと?? さゆ、藤本先生が好きなの?」
 「そう」
 「ちょ! ちょっと、れいな! 勝手に答えないでよ!」
 「いーじゃん。絵里だし。ウソ言ったわけじゃないし」
 「ねぇねぇ、くわしく聞かせてよぉ〜」



 それから、れいなはさゆの奥手ぶりについて絵里に話した。
 さゆは顔を真っ赤にして否定とかしてたけど…全部真実だよ。


 「だめじゃん、さゆ! もっと積極的に行かなきゃ!」

 言って絵里がれいなの腕に抱きつく。

 「ま、ほどほどに…ね」

 れいなは絵里を押しのけながらさゆに言った。


 「あれ〜? なんだ、みんないんの? 帰っていいって言ったのに」

 「うわ! 藤本先生!」
 「うわさをすればってヤツだね」

 なんだか、丁度いいタイミングで会議を終えた藤本先生が部室に入ってきた。

 「なになに? 何の話してたの?」

 先生がれいなの顔を見て言った。


 「だれかとだれかがじれったいね、って話ですよ」
 「? れいなと絵里の話?」
 「ばっ! ちが! 先生のことだっつの!」


 あ、やば。

 絵里も、「れいな言っちゃったー」みたいな顔をしていて、さゆはうつむいている。


 「え、私…?」
 「あ〜! そんじゃ、絵里たちは先に帰りますね」

 絵里がれいなの腕を掴んで入り口のほうへ歩き出した。
 さゆは行かないでほしそうな顔をしてたけど……。


 「じゃ、また明日!」
 「さよなら〜」


 ごめん、さゆ。 がんばれ。

 れいなはそれしか言えない。




  【ROUND-3】


 なんかよくわからないけど、すごく微妙な空気の中に残されてない、私?


 「…え…と…?」
 「あ、あの…!」
 「ん?」
 「あ…いえ、なんでも、ないです…」


 道重も帰るかな? とか思ったけど。
 ペタン、と椅子に座ったので、私も斜め向かいのパイプ椅子に座った。

 「初めてだね、こんな風に話すの」


 ふたりきり、という単語を口に出してしまったら私も緊張してしまう(いや、もうしてんだけど、さらにって意味で)ので意識して遠まわしに言った。

 「はっ、はい…」
 「そんなに緊張しないでよ。私よく怖そうだとか言われたりするけど、そんなに怖くないと思うよ?」

 たぶん。


 「あ、はい…」

 っつっても、まだ下向いてて目をあわせてくれない。
 ちょ、ヘコむよ、これ。

 「あ〜、っと。ねぇ、もしかして私のこと…キライだったり…とか?」

 あ、うわ! 失敗した!
 聞き方失敗した!

 これで「キライです」なんて言われたらどーすんの、私!
 今日、死ぬしかないよ。


 「え!?」

 あ、やっと顔上げてくれた。

 じゃなくて!
 さっきの質問、早く撤回しないと!


 「あ、そのっ」
 「あぁぁあの、そんなことは全然ないです! キライなんて…そんなこと…」
 「え、ホント!?」


 せ、セーーーーフ!!!!!
 私の命、セーフ!


 「えっと…はい…」
 「そっ…か。そっかそっか、よかった…!」
 「え?」

 あ、単純に喜んでる場合じゃねぇ。


 「あ、えっと、…あ、ホラ。やっぱこれから毎日顔合わせるわけだし? みんなこう…仲いいと…いいよねってゆー」
 「あ、そ! そうですよね!」
 「そうそう! あはははは」


 いや〜、なんかもうこれ…よかったのかな?



  ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★



 「ねぇねぇ、あのふたりどーなったかな?」
 「さぁ。ってか、絵里。ここに当然のようにいるのはなぜですか」


 学校から帰って、やけにいつまでもついてくるなぁ、と思ったら絵里は半ば無理やりれいなの家に上がり込んできたのだ。

 「さぁってなにさー」

 れいなの後半セリフは完全に無視された。
 もう…いいです。


 「どーにもなってないんじゃない?」
 「えー! つまんないなぁ」
 「どーにかなったら困るじゃん。 教師と生徒なんだし」
 「じゃ、うちらはどーにかなっても問題ないってことだよね?」

 体を寄せながら絵里が言う。


 「はぁ!?」
 「だって、うちらは生徒と生徒なわけだし?」

 さらに顔を近づけながら言う。

 あぁぁああぁあああ。


 「な、ちょっ! 離れろ! ってか、帰ればかー!!」


 さゆも大変だろうけど…れいなもれいなで大変だよ…。






  ☆★次回予告☆★


 はろー。 藤本です。

 わかってます、わかってます。
 みなさんの言いたいことは。


 「なんであそこで誤魔化しちゃったんだ」 でしょ?


 だけどさぁ…。

 あーもー。 ハイハイハイハイ。
 すみませんねぇ奥手でね!


 とりあえず、平成RPGはこれで終わり!

 みなさん今まで応援ありが…

 え、あ? 違う?
 第1部・完?


 って、これまだ続くのかよ!


 でも次回は第2部の前に、ごっちんが主役の番外編?

 だってさ〜。
 
 
 次回、平成RPG 番外
 『ねがいごと』


 それではみなさん。 また会う日まで〜
 バイバーイ、ピンクー!







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