white veill
10



 翌日。

 江利子さんは、いつも通りで。


 店長も、由乃さんも、祐巳さんも何もきかない。

 だからあたしもその日常に慣れようと必死につとめた。


 いつも通り。



  †     †     †     †     †     †     †



 その夜、江利子さんから電話がきた。


 今すぐ会いたい、なんて我侭の電話。


 私は江利子さんが言った公園に素直に向かった。



 頼りない街灯の下。

 江利子さんは小さな雪の粒を纏いながら、強い存在感を持って立っていた。



 「どうしたのですか? いきなり」


 本当は、いきなりなんかじゃない。
 予兆はあったし、覚悟もしてきた。


 「…昨日のことで」
 「…蓉子さんの?」
 「ええ」


 今までの、江利子さんと蓉子さんのこと。
 昨日、ふたりで店を出てから話したこと。


 江利子さんは時々、言葉に詰まりながら、だけど全てを話してくれた。


 「それで…やっぱり蓉子とは付き合えないって言った」
 「…はい……」
 「どうしてって、きかないの?」


 聞きたくない。

 けれど。


 「どうして、ですか?」


 あぁ、私は。


 「志摩子のことが好きだから」


 なんてことを言わせてしまったのだろう。



 最愛の人に。

 なんてことを。



  †     †     †     †     †     †     †



 「志摩子のことが好きだから」

 ついに、言ってしまった。


 でもきっと、志摩子は頷かない。

 だから、言わないでおこうと思っていたけれど。


 どうしても、伝えたくて。


 「私は……」
 「あ、いいの。 わかってるから。 ただ私がそう思ってるだけで」
 「いいえ。 お願い、聞いてください」


 儚く、強いその瞳の力に圧されて、私は少し動揺した。


 「納得、できないままでは…いけないと思うので」


 そして、目を瞑って深呼吸をした後、志摩子はまっすぐに私を見て。


 「私…――」



 雪が降る中、固い意志を持って私を見つめる彼女は、この世の何よりも美しいと思った。





『white veill』 10話 終わり




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