それから、その彼女 ――名前は藤堂志摩子というらしい―― は、よく店に来るようになった。
この近くの山百合大学に通っていて、毎週講義が無い水曜日にはかなりの確率で来店する。
私に会いに来てくれている、なんて驕ったことを考えてしまうくらい志摩子は私に懐いていて。
なんとなく、可愛らしい妹ができたような。
あぁ。
どうか、この穏やかな感情のままで。
彼女に接していたい。
white veill 2
「おはようございます」
ここでは聖と私は店長と従業員という立場なので、一応、出勤のあいさつはきちんとする。
「あ、おはよう。江利子」
「あら、志摩子。来ていたの?」
私はカウンター席にぽつりと座る姿を見つけて、心が弾んだ。
いつもはもっと遅い時間に来るのに。
なんだか、得をした気分。
「おまちかねだもんね」
「て、店長!」
聖の言葉に、志摩子が慌てた様子で反応する。
「来て早々、江利子はどうしたーって」
「そ、そんなこと…」
顔を赤らめて、うつむいてしまう。
聖の言葉に直されていたが、本当にそのようなことを言ったのだろう。
これはちょっと…。
いえ、かなり。
嬉しい。
「あらあら。 それはおまたせしました」
私も照れ隠しにわざと聖のノリに合わせる。
「………」
「あはははは! そんじゃ、江利子。 早く準備して、接客したげな」
「はいはい」
私はスタッフルームに入って、すぐにそのままエプロンをつけて出ていく。
「…そういえば、江利子さん、その格好でここまで来られたのですか?」
「え? そうだけど」
「寒く、ないですか?」
私はYシャツに薄手のカーディガンを羽織った格好で。
もうすぐ、秋が終わるという今の季節には少し肌寒いかもしれない。
「あぁ…。 奥に仕舞ってあるコート、出すのが面倒なのよね。 それに、まだ耐えられるし」
「そんな…風邪を引いてしまいます」
「だぁーじょうぶ、大丈夫。 昔から「江利子はカゼひかない」って言うでしょ?」
「私の記憶ではあなたの方が健康面では優れていたと思ったけれど、聖?」
「ぐぁ…」
「ふふっ…」
志摩子が口元に手をあてて、笑う。
なんて、綺麗な笑顔なのだろう。
嬉しいけれど、少し怖い。
志摩子が笑えば笑うほど、心を奪われていってしまうようで。
『white veill』 2話 終わり
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