それから、その彼女 ――名前は藤堂志摩子というらしい―― は、よく店に来るようになった。


 この近くの山百合大学に通っていて、毎週講義が無い水曜日にはかなりの確率で来店する。


 私に会いに来てくれている、なんて驕ったことを考えてしまうくらい志摩子は私に懐いていて。
 なんとなく、可愛らしい妹ができたような。


 あぁ。
 どうか、この穏やかな感情のままで。


 彼女に接していたい。




white veill




 「おはようございます」


 ここでは聖と私は店長と従業員という立場なので、一応、出勤のあいさつはきちんとする。


 「あ、おはよう。江利子」
 「あら、志摩子。来ていたの?」


 私はカウンター席にぽつりと座る姿を見つけて、心が弾んだ。


 いつもはもっと遅い時間に来るのに。
 なんだか、得をした気分。



 「おまちかねだもんね」
 「て、店長!」


 聖の言葉に、志摩子が慌てた様子で反応する。


 「来て早々、江利子はどうしたーって」
 「そ、そんなこと…」


 顔を赤らめて、うつむいてしまう。


 聖の言葉に直されていたが、本当にそのようなことを言ったのだろう。

 これはちょっと…。

 いえ、かなり。
 嬉しい。


 「あらあら。 それはおまたせしました」


 私も照れ隠しにわざと聖のノリに合わせる。

 「………」
 「あはははは! そんじゃ、江利子。 早く準備して、接客したげな」
 「はいはい」



 私はスタッフルームに入って、すぐにそのままエプロンをつけて出ていく。


 「…そういえば、江利子さん、その格好でここまで来られたのですか?」
 「え? そうだけど」
 「寒く、ないですか?」


 私はYシャツに薄手のカーディガンを羽織った格好で。
 もうすぐ、秋が終わるという今の季節には少し肌寒いかもしれない。


 「あぁ…。 奥に仕舞ってあるコート、出すのが面倒なのよね。 それに、まだ耐えられるし」
 「そんな…風邪を引いてしまいます」
 「だぁーじょうぶ、大丈夫。 昔から「江利子はカゼひかない」って言うでしょ?」
 「私の記憶ではあなたの方が健康面では優れていたと思ったけれど、聖?」
 「ぐぁ…」
 「ふふっ…」


 志摩子が口元に手をあてて、笑う。


 なんて、綺麗な笑顔なのだろう。



 嬉しいけれど、少し怖い。


 志摩子が笑えば笑うほど、心を奪われていってしまうようで。





『white veill』 2話 終わり




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