white veill



 あれから一週間後の水曜日。
 今日も志摩子が店に来てくれた。


 一度、一通りの仕事に集中してから ――じゃないと、何か失敗してしまいそうだった。
 私はいつものカウンター席に座った彼女の側に行った。


 「ありがとう」
 「え?」
 「マフラー。 すごく温かいわ」
 「あ、はい、…いえ、あのっ」


 初めて見た。
 こんなに慌てる志摩子。


 「?」
 「あの…あれから、やっぱりご迷惑ではなかったかと、少し不安で」
 「そんなこと…」
 「ですから、…こちらこそ、ありがとうございます」



 目を伏せて、必死にそう言う志摩子が、すごく可愛くて。


 「ねぇ。 次の日曜日は、何か予定がある?」
 「? いいえ」
 「じゃあ、私と出かけましょう。 何かお礼がしたいわ」
 「そっ、そんな…! お礼なんて。 私が勝手に押し付けたような…」
 「それじゃあ、今度は私の勝手。 あなたにぜひ、お礼がしたいの」



 少し強引だったかしら。


 だけど、顔を真っ赤にして私なんかとでよければ、と言った彼女を見たらそれが正解だったと思えた。



  †     †     †     †     †     †     †



 そして、日曜日。


 待ち合わせ場所に行くと、10分前に来た私よりも先に志摩子は来ていた。


 真面目な子。
 もう、可愛くて仕様が無い。



 「あ、コート…」
 「え? あ、さすがにもう寒さに耐えられなくなってね」
 「ですよね。 最近は一気に冷え込みが…」
 「じゃなくて」
 「?」


 きょとん、と私を見つめ返す。
 本当に私が何を言いたいのかわからないのかしら?


 「コートよりもこっちじゃないの?」


 私はマフラーを指して言う。

 志摩子の前で巻くのは初めてなのだけれど?


 「あ、…はい。 ありがとうございます…」
 「だから、お礼を言うのは私の方」
 「いえ、あの…本当に、身につけていただいて…」

 あ、まずい。
 自分から振った話題のくせに…自爆してしまう。


 私の予想以上に、志摩子はいつだってかわいいから。



 「あ、…えぇ。 それじゃ、行きましょうか」
 「は、はい」


 私は志摩子の手を取って歩き出した。




 乾いた冬の空気の中、あなたと穏やかな休日を過ごせたこと。

 私はきっと、忘れない。





『white veill』 4話 終わり




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