white veill



 今日は突然講義が休講になったので、私は江利子をびっくりさせようと喫茶店に向かった。

 きっと、ちょうど私が着くころに仕事が終わるはず。


 今日の晩御飯の買い物を二人でして。

 久しぶりに、ゆっくり話をしよう。
 他愛もない話を。


 店が近くなると、その中から賑やかな声が聞こえてきた。

 窓から覗いてみると、カウンターのところで江利子と小柄な三つ編みの女の子が笑いあっていた。


 誰だろう。

 色白で華奢で可愛らしいコ。
 江利子が、好きそう。


 新しいバイトのコかしら。

 ちょっとショックだったけれど、同じ仕事場なんだし。
 ケンカしてるよりは仲がいいほうが。


 無理やり自分を納得させて、深呼吸してから私は店に入った。



  †     †     †     †     †     †     †



 それから何日かして、江利子の仕事がなくて、私も大学が休みの日。

 今日は何をしようか話そうとしたら、江利子の携帯電話が鳴った。



 深刻そうな声。


 「…今どこにいるの? ……うん」


 嫌な予感。


 「大丈夫よ。 すぐにそっちに行くから」


 ほら、やっぱり。

 江利子は通話を終えると、財布と車のキーを乱暴に掴んだ。


 「ちょっと、出かけてくるわ」
 「どこに?」
 「聖のところで一緒に働いてるコのとこ。 すぐ戻ってくるから」



 結局、その日。
 江利子は夕方まで帰ってこなくて。


 疲れた表情をする江利子に、怒りを通り越して呆れて。
 私は課題があるから、と言って自分の家に帰った。



 久しぶりに点けた部屋の電気はなんだか懐かしく感じた。


 私は高校を卒業してから、ほとんど江利子の家で過ごしていて。

 私物なんかも大分向こうにある。


 だからこの殺風景な部屋が、妙に苛立たしかった。



  †     †     †     †     †     †     †



 それから。

 私は江利子の家に居ても、ひとりのことが多くなった。


 江利子は、あの子のところへ行ってしまうから。

 元々あまり無かったふたりの時間は、余計に減って。



 信じている。

 江利子は、私以外の人を好きにはならないと。


 だけど。

 どうしても。

 私の心の、嫌な感じは消えてくれなくて。



 江利子の帰りが遅いと、電話がきたら居なくなってしまうと。


 不安で、不安で。


 壊れてしまいそうになるの。



 だから、私は。





『white veill』 8話 終わり





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