white veill 8
今日は突然講義が休講になったので、私は江利子をびっくりさせようと喫茶店に向かった。
きっと、ちょうど私が着くころに仕事が終わるはず。
今日の晩御飯の買い物を二人でして。
久しぶりに、ゆっくり話をしよう。
他愛もない話を。
店が近くなると、その中から賑やかな声が聞こえてきた。
窓から覗いてみると、カウンターのところで江利子と小柄な三つ編みの女の子が笑いあっていた。
誰だろう。
色白で華奢で可愛らしいコ。
江利子が、好きそう。
新しいバイトのコかしら。
ちょっとショックだったけれど、同じ仕事場なんだし。
ケンカしてるよりは仲がいいほうが。
無理やり自分を納得させて、深呼吸してから私は店に入った。
† † † † † † †
それから何日かして、江利子の仕事がなくて、私も大学が休みの日。
今日は何をしようか話そうとしたら、江利子の携帯電話が鳴った。
深刻そうな声。
「…今どこにいるの? ……うん」
嫌な予感。
「大丈夫よ。 すぐにそっちに行くから」
ほら、やっぱり。
江利子は通話を終えると、財布と車のキーを乱暴に掴んだ。
「ちょっと、出かけてくるわ」
「どこに?」
「聖のところで一緒に働いてるコのとこ。 すぐ戻ってくるから」
結局、その日。
江利子は夕方まで帰ってこなくて。
疲れた表情をする江利子に、怒りを通り越して呆れて。
私は課題があるから、と言って自分の家に帰った。
久しぶりに点けた部屋の電気はなんだか懐かしく感じた。
私は高校を卒業してから、ほとんど江利子の家で過ごしていて。
私物なんかも大分向こうにある。
だからこの殺風景な部屋が、妙に苛立たしかった。
† † † † † † †
それから。
私は江利子の家に居ても、ひとりのことが多くなった。
江利子は、あの子のところへ行ってしまうから。
元々あまり無かったふたりの時間は、余計に減って。
信じている。
江利子は、私以外の人を好きにはならないと。
だけど。
どうしても。
私の心の、嫌な感じは消えてくれなくて。
江利子の帰りが遅いと、電話がきたら居なくなってしまうと。
不安で、不安で。
壊れてしまいそうになるの。
だから、私は。
『white veill』 8話 終わり
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