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 今まで、何をしていたんだっけ…?

 ただ、ひとつだけ分かるのは私はたった今起きたということ。

 起きる前は…寝ていた。



 当たり前のことだけど、頭がぼーっとしていて、うまくまわらない。



 ここは、どこだろう。


 白い。
 ベッドも、カーテンも、壁も。

 横には大きくて、きれいな花が花瓶に活けられている。


 えぇっと…?


 さらに体をひねって、枕元を見てみると、ベッドの柵には自分の名前が入ったプレートがかけられている。

 その側には、長いコードがあってその先にはボタン。



 あ、れ?

 私、もしかして…。



 突然、ドアノブがひねられて誰かが入ってくる。


 緊張。

 けど、それはすぐに違和感に変わり、疑問へ。


 「! 繭! 目が覚めたのか」


 私は確認すように、その人を呼んだ。


 「…螢、叔父さん?」
 「あぁ。 体起こして大丈夫なのか? 気分は?」
 「え、…うん。 …大丈夫。」


 叔父さん。

 どうして、ここにいるんだろう。


 「ここは病院だよ。 分かるか?」
 「……うん」
 「お前は森で倒れてるところを発見されて。 それから何日もここで眠り続けていたんだぞ」


 あぁ。

 もしかして、叔父さんがずっと私の看病についていてくれたのかな。


 叔父さんはベッドの横にあった丸椅子に座った。


 前に会ったのはいつだったかもう覚えてないけど…。

 叔父さんの方が具合悪そう。
 疲れが、目に見えるようだった。


 「そう…なんだ…」


 まだ、頭はぼーっとしている。
 それは、ずっと、寝ていたから?


 「まったく、こんなに人の心配をしたのは生まれて初めてだよ」
 「叔父さん、澪は?」


 考えるよりも先に、その言葉が出ていた。


 そして、自分の言葉に気付かされる。

 そうだ。 澪。

 澪はどうしたんだろう。
 どこにいるんだろう。


 ここは個室みたいだけど…。


 「ん? …あぁ、澪…な」


 私から、少しだけ目をそらす。


 今は、ここにいないの?


 「もう退院したの?」
 「…いや……」


 心臓がいやな音を立てる。

 もしかして、私より、具合悪いの?


 「…澪…」


 一番近くで聞こえる自分の声のはずなのに、なんだか遠く感じる。


 「…繭も、知らないのか?」


 どういうことだろう?

 私はたった今目覚めたのに。
 ずっと側で看病してくれてた叔父さんの方が知っているでしょう?


 「いや、俺には…その…わからないんだ」
 「…わか、らない?」


 …何が?

 わからないって…それ自体がわからないよ。


 私が黙っていると、苦虫を噛み潰したような顔で、今までで一番かすれた声で、叔父さんは言った。


 「森の中で倒れていたのは、繭。 お前だけだったんだよ」


 言葉は聞こえたけど、意味が理解できない。


 どういうこと?

 私だけ。 倒れていた。 森の中に。


 済んだ水と空気、約束の場所。 あの森。


 そこには、地図にはない村があって。
 祭りの夜が、終わらない村があって。


 私たちは、そこにいて。


 そこで…。




  *     *     *     *     *     *     *



   お姉ちゃん!


 澪の声が聞こえた気がした。


 力が抜けた体に、強い力がかかる。


 衝撃。


 自分は地面に倒れ込んだのだと気付くのにしばらくかかった。




  *     *     *     *     *     *     *



 あの直後、私は意識を失って。


 腕に鈍い痛み。

 澪に掴まれた場所。


 最期に、触れられた場所。


 そうだ。
 あのとき。


 私が虚に落ちそうになったときに、澪は私の腕を掴んで体を反転させて。

 その遠心力で私は地面の方へ。


 そして澪は…、虚に落ちてしまったのだ。



 「澪…」
 「繭? おい、どうした? 大丈夫か?」


 私のせいで、澪が。


 「繭!?」


 いなくなってしまった。


 もう二度と会えない。

 それは、私のせい。


 私の代わりに、澪は深く暗い場所に落ちてしまった。

 私の、せいで。



 あぁ、世界がなくなってしまった。



 視界の端が闇にのまれてゆく。

 その闇は徐々に広がっていって。


 やがて繭の視界から、光を完全に追い出した。



 意識を失う寸前、一瞬ズキンと澪が掴んだ腕が熱くなった気がした。







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